ミニ四駆レース、運動会、社員寮… 新年度、若手社員の離職防ぐには

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堅島敢太郎 中野浩至
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 新年度が来た。退職代行業が広がるなど、若手社員にとって「辞めやすい」環境が整いつつあるが、人手不足の中で企業にとって離職は死活問題だ。どう会社に魅力を感じてもらうか。アナログな「絆」に注目する取り組みが広がっている。

 ドイツの自動車部品大手「ボッシュ」(横浜市都筑区)の1日の入社式で開かれたのは、「ミニ四駆」レースだ。参加した新入社員約70人は、チームに分かれてマシンを製作。社長との「あっち向いてホイ」で勝ち取ったアイテムを使い、試走を重ね、調整を繰り返した。車体が完成すると、スピードやデザインを競い合った。

 同社が入社式をこうしたイベント形式に変えたのは2017年から。役員と新入社員が一緒に取り組むことで、結束力を強める狙いがある。過去には運動会やファッションショーなども開催した。同社によると、イベントができなかったコロナ禍では、入社後3年以内の離職率が上がったという。

 市山千奈美・人事部門採用マネージャー(49)は「入社初日から本来の自分を出せるため、同期の絆はより強くなる。退職を思いとどまらせる効果もある」と話す。新入社員の玉田洋一朗さん(24)は「悩みが生まれても、入社式でできた友達に気さくに相談できる。社内転職をしたい場合は同期の話が参考になるのでは」と話した。

 同社の入社式を支援したのは、東京都渋谷区のイベント会社「運動会屋」。文字どおり、企業を中心に運動会をプロデュースしている。

「気合と根性」だけの会社、会話が全てチャットの会社

 同社の米司隆明代表はかつて二つの会社に勤務していたことがあった。1社はひたすら「気合と根性」が求められ、もう1社は社内での会話は全てチャット。どちらも「異常」な世界と感じたという。

 こうした会社では働く意欲を見いだすことが難しいと考えた米司さんは、「仲間と協力しながら、やる気を出して取り組んだ」という学生時代の野球部を思い出した。スポーツを通じて会社の就業環境を改善したいと考え、多くの人になじみが深い運動会の開催を企業に提案することにしたという。

 07年から取り組みを始め、昨年は1年間で253件の運動会などのイベントをプロデュースした。参加者は200~300人規模が平均的だが、東京ドームを貸し切りにして2万人が集まった運動会も。受注の半数がリピーターだという。

 最近になり、利用者からは「安心した」といった声が聞かれるという。コロナ禍を学生として過ごした若手社員の多くは、オンラインでやりとりすることが当たり前になり、業務外で同僚らと関わる機会が減っていた。米司さんは、運動会を通じて自分の居場所を見つけたり、会社から必要とされていると感じられたりできるようになったのではと感じている。

「組織の中で社員たちを幸せに」

 米司さんによると、運動会への参加を経て離職を思いとどまった社員もいたという。米司さんは「とかく離職対策というと、福利厚生を充実させるなど『ご機嫌うかがい』をしがちだ。どうしたら組織の中で社員たちを幸せにできるのか、という発想がもっと求められるのではないか」と話す。

 総合商社大手の伊藤忠商事では、新入社員は原則として寮生活を送る。寮は首都圏内で散らばっていたが、4カ所あった男性寮は18年に、2カ所あった女性寮は今年3月にそれぞれ1カ所に統合した。「借り上げ社宅」が多い中、同社は社員寮にこだわる。「社内で『縦横斜め』のつながりを強めてほしい」という思いからだという。

 新築の女子寮は、川崎市宮前区にある東急田園都市線の駅徒歩3分という好立地。若手社員同士が交流しやすくするため、居室に向かう際に人が集まるリビングを通る構造にした。3月中旬から住んでいる女性社員(23)は、「シェアキッチンで料理をしていると同期から話しかけられることもある。社内での人脈形成の第一歩になっています」と話す。

 同社の担当者は「寮で若いうちから先輩も含めて人間関係を築くことで、将来的に心強い相談相手になる」と言う。「女性活躍の土台にもなり、長くこの会社で働こうという動機付けにもなる」

離職の主な原因三つは

 厚生労働省によると、2021年3月の高卒者の38.4%が、大卒者の34.9%が、3年以内に離職していた。それぞれ前年度から1.4ポイント、2.6ポイント上昇。大卒者に関してはここ15年で最も高い数字だった。

 若手社員の離職の理由はなにか。

 人材サービス会社「エン・ジ…

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この記事を書いた人
中野浩至
東京社会部
専門・関心分野
税務、独占禁止法、事件・事故