独フォルクスワーゲンがキュートな「ID. EVERY1」(アイディー・エブリワン)なるEVのコンセプトモデルを、2025年3月に公開した。興味ぶかいのは、彼らのヤル気。なにしろ車名が「エブリワン」(みんな)なのだ。
ひねりを聞かせた名前でお披露目
VWは知っているひとは知っているとおり、EV開発に熱心に取り組んできたメーカーだ。それが仇となり、EV販売の落ち込みが2024年の同社の業績の足をひっぱった。
いまでは、エンジン、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、EV、すべての可能性を追求すると、方針をやや修正。たしかに、エンジン車もよく出来ている。

それでも、今回のID. EVERY1の発表会場だったデュッセルドルフの見本市会場において、乗用車部門のトマス・シェファーCEOは、「結局は電気自動車へと向かうことになる」と言い、同社はEV開発にこれからもしっかり取り組んでいくとした。
世界中から集まったメディア関係者を前にお披露目されたID.EVERY1。私のおどろきはふたつあった。
ひとつは、車名。「ID. 1」だと思っていたのに、ユニークな“ひねり”が加えられていた。「量産車の市場でもっとも幅広いモデルラインナップの構築を目指す私たちの取り組みを完成させる最後のピース」と、シェファーCEOの発言が興味ぶかい。

エブリワンの意味するところは、「幅広い年齢層が対象で、乗用車としても商用車としても使えるEVをめざす」と説明。マーケットでは、人気が高かった同社の「up!」(EVのe-up!もあった)の後継車の位置づけだそう。
シンプルな造形美をもつデザイン
もうひとつのおどろきは、デザイン。鳴り物いりで“レッドカーペット”上に登場した実車は、いかにもVW的というか機能主義的なシンプルな造型美をもっていた。

「VWのプロダクトは質感で勝負します」。そう言うのは、会場で話しを聞いたヘッドオブデザイン(デザイン統括)のアンドレアス・ミント氏だ。私はこのひとに、これまでに10回近くインタビューしているのに、いまだに「どっかで会いましたよね」などと言われる。
昨今、ルノー(「トゥインゴ」「4」「5」)やヒョンデ(「インスター」)など、遊びの多いデザインを採用したEVが出てきているが、VWデザインのアプローチは、いってみれば正反対だとか。シンプルな造型はクオリティのよしあしが如実に出ると、ミント氏は胸を張っていた。

インテリアの作り込みはこれからで(公開されているのはレンダリングという“絵”)、デジタル技術がどのように採用されるかも、現時点では「確定的なことは言えない」状態だそう。2025年から2027年のあいだにけっこうな“進化”がありそう。
ID.EVERY1のメカニズム上の特徴は、フロントモーターで前輪駆動という新開発のEV用プラットフォームを使うこと。すでにファミリーとして、2026年にプラットフォームを共用する「ID. 2all」の発売が発表されている。
ID.2allも、2023年にコンセプトが公開されたときは、ちょっとびっくりした記憶がある。あえて従来のVWのコンパクトハッチバックとのつながりを強く感じさせるデザインだったからだ。
ジョルジェット・ジュジャーロが大好きだと言うミント氏は、ジュジャーロがデザインを手がけたゴルフ1(1974年)のデザイン要素を、最新のコンパクトEVに取り入れたと公言。加えて、多くのひとに親近感をもってもらうためにフロントマスクの造型では「スマイル」を意識したという。ID. EVERY1でも同様。
過去の名車たち掘り下げ、未来へつなげる

ミント氏に、ID. EVERY1とID. 2allの相違点を確認した。それは車名にあった。エブリワンは「自動車を使うひとみんな」を意味していて、オールは「オール・ザ・カーラバー、自動車を愛するひと全員」という、すこし“くくり”を設けているということだった。ID.2allには「GTI」モデルも予定されているようだし。
デュッセルドルフの会場では、ビートルやゴルフなど、歴史的なVW車がいかにひとの生活に溶け込んできたかを表すイメージ画像はさかんに映され、「人々がフォルクスワーゲンに期待しているとおり、私たちはすべての人々のためのブランド」とシェファーCEOは言った。
私が知るかぎり、ここまで自社製品の過去を掘り下げて、それを未来へとつなげようというメーカーはない。もちろん、すべてのひとに愛されるクルマなんてすてきな考えかただ。こういうことを堂々といえる自動車メーカーは好きだなあと思う。
【スペックス】
Volkswagen ID Every1
全長×全幅×全高:3880×1816×1490mm
ホイールベース:2539mm
バッテリー駆動電気モーター 前輪駆動
最高出力:70kWと95kW(2モデル想定)
一充電走行距離:250km以上
写真:Volkswagen
















