総務や法務、人事をはじめ、様々な側面から会社の業務運営に関わる「コーポレートスタッフ部門」。世界中に広がる多様な事業を展開している三菱商事では、それを支えるコーポレートスタッフ部門の機能・役割も多岐にわたる。
今回は、部門を構成する12の部の中から、グローバル総括部、ITサービス部、事業投資総括部の3人の社員が登場。「型通りの業務をしているようなイメージがあるかもしれませんが、実は違うんです」。その言葉の真意とは。キャリアの変遷は。後進への思いとは。朝日新聞GLOBE+の関根和弘編集長が話を聞いた。前後編にわたって紹介する。



※本文は敬称略
[聞き手]
関根 和弘(朝日新聞GLOBE+編集長)
全社の事業を支える、12の専門チーム

──「コーポレートスタッフ部門」というと、身近なようで、その全体像や立ち位置についてはよく知られていない部分もあるかもしれません。まず、どんな部門なのかを教えてください。
畑中 コーポレートスタッフ部門は、三菱商事の戦略的な事業運営を支える役割を担っています。
例えば、営業グループで新たなプロジェクトが始動する際には、その遂行には多岐にわたる専門的なサポートが必要です。グローバルなインテリジェンス機能を活用して事業の”タネ”を見つける支援に始まり、資金調達の検討、採算性・リスク分析、さらには法的観点や会計面での精査などがあります。また、投資実行後には、実際にその事業の中に入り、価値を生み出していく上で必要なサポートもあります。それに加え、これら全てを統括し、会社全体の運営を支える役割も重要です。例えば既に挙げたような機能に加えて、全社人材戦略の策定や、ITで業務を支えるシステム関連、さらに株主をはじめとするステークホルダーへの情報発信などもいるでしょう。
このような多岐にわたる機能を、三菱商事のコーポレートスタッフ部門では12の部が協力して担い、全社の事業運営を支えています。

――三菱商事が展開する国内外の幅広い事業を、皆さんがサポートしているのですね。
畑中 そうですね。三菱商事では八つの営業グループが各種産業と幅広い接地面を持ちながら、世界各地で多様なビジネスを展開しています。国・地域が違えば法制度や通貨も異なりますし、対面する業界が違えば、事業環境や戦略も変わります。ですから、我々コーポレートスタッフ部門にも、非常に幅広くかつ複雑な機能が求められるというわけです。
また、私たちの仕事は、事業の最前線にいる営業メンバーと密なコミュニケーションを取りながら進めていくものでもあります。「コーポレートスタッフ部門の専門性」と「営業グループの専門性」を掛け合わせることで、一つひとつの案件を丹念に作っていく、あるいは、会社全体の業務運営に落とし込んでいく。そんな仕事だと捉えています。
事業や人・情報の「コーディネーター」として

――続いて、各部の仕事内容を教えてください。まず、リムさんの「グローバル総括部」では、どんな仕事をしているのですか。
リム グローバル総括部の英語表記は、“Global Planning&Coordination Dept.”。その名の通り、世界各国・地域の戦略を、営業グループの目指す方向性も踏まえて「プランニング」したり、事業や人・情報を「コーディネート」したりする役割を担っています。
具体的にはまず、「海外拠点の窓口」としての役割です。世界各地の拠点は、現地のビジネスパートナーや政府関係者など様々な利害関係者と関係を持ちつつ、拠点運営を行っています。その過程での悩みや課題意識をワンストップで受け留め、解決に向けて東京本社から側面支援しています。
それから、「インテリジェンス」の取りまとめです。近年、国内外の環境は目まぐるしく変化していますよね。そこにタイムリーに対応するためには、不断の情報収集や分析が不可欠です。情報は地政学、政経情勢、政策動向、パートナー戦略、低・脱炭素、技術・イノベーションなどと極めて多岐にわたります。そしてそれが三菱商事のビジネスにどんな影響を与え得るかを分析しなければなりません。
時に目につきにくい事業の“タネ”を、各国・地域と協力して、経営や営業グループに提案するなど、市場や事業の開発に伴走する「市場開発支援」も担っています。加えて、事業リスクを管理し、経営の安定を図る重要な機能の一つである「保険」を取り扱うチームもあります。
これらの業務は地域や機能ごとにチームが分かれており、私は主にアジア・大洋州地域の窓口としての役割を担当しています。
――「インテリジェンス」というのは、例えばどういった情報を扱うのでしょうか。
リム 例えば、「中国の不動産バブル」といった話は、ネットのニュースなどで目にすることがあると思います。しかし「そもそもなぜ不動産市場が加熱していたのか」「高騰していた不動産価格が、なぜいま下落しているのか」「政策方針や今後の影響をどうみるべきか」といったところまで繋げて分析・考察を加えているものはそうありません。ましてや「中国不動産市場の変化が三菱商事のビジネスにどんな影響を与え得るか」が具体的に示された資料は、世の中には存在しませんよね。
そこでグローバル総括部では、公開情報は勿論、有識者や政府関係者、パートナー、世界各地の拠点などから世の中に報道されていないものも含めて情報収集し、それらを多角的に組み合わせることで分析します。更に、経営陣や関連する営業グループにレポーティングすることで、経営の意思決定をサポートしているのです。ここでは三菱商事の持つ幅広い産業接地面やネットワークが大いに役立ちます。こうしたインテリジェンスの拡充・蓄積は、全社のさらなる成長につながると考えています。
「このリスクを取るべきか」投資の意思決定を支援

――畑中さんの所属する「事業投資総括部」では、どんな仕事をしているのですか。
畑中 事業投資総括部では、「新たな投資を行う際のリスク分析」、そして「投資を実行した後のモニタリングとフォロー」という主に二つの業務を通じて、事業のライフサイクルを通じた経営の意思決定を支援しています。
リスクというと、“不安なもの”や “避けるべきもの”というイメージがあるかもしれません。ですが、「将来の不確実性」を的確に分析し、一定のリスクを取ることが、相応しいリターンを獲得することに繋がります。
一定規模を超える投資案件は、社長室会や取締役会での審議を必要とします。私たち事業投資総括部は、「どのようなリスクが、どれくらいの大きさで存在するのか」を評価します。さらに「リスクの回避や転嫁、低減ができるかどうか」も検討します。他にも様々な分析を加えて提言をまとめ、「このリスクを会社として取るべきか」という経営陣の意思決定をサポートしているのです。
――リスク分析というのは、例えばどういう点を確認するのでしょうか。
畑中 どんな案件でも、まず確認するのはビジョン・戦略です。何を目指して、なぜ三菱商事が投資をするのか。それを明確にすることが、後の様々な判断の基準となります。
それから、業界の動向、国・地域の特性といった企業がコントロールできないマクロ環境についても評価します。事業計画の精査と三菱商事が創出できる付加価値の検討、そしてそこから期待できる採算性の評価は、肝の部分です。また、株主としての権利と義務に関する条件面の確認も重要です。
とはいえ、事業投資総括部だけですべてのリスクを分析・評価するのは不可能です。案件を推進する営業部局と密に連携しながら、法務部や財務部、財務開発部など他の部とも力を合わせていきます。
ITデジタルの力で、社会課題の解決に貢献を

――続いて安宅さん、「ITサービス部」の仕事について教えてください。
安宅 ITサービス部では、日々の「企業運営」に必要なシステム運用や開発、「ITリスク対応」としてのサイバーセキュリティー対策強化、また、三菱商事の「改革・成長」を促進するために、最新技術を活用した業務プロセス改革や事業の高度化支援も行っております。さらに、グループの事業会社や海外拠点へのサポートも一部行っています。
私は2016年に入社後、AIを活用したヘルプデスクの立ち上げや、AIの自動翻訳ツールの全社導入など、バックオフィスの強化に携わっていました。
――その後、ご自身の希望でローソンに出向したそうですね。ローソンではどのような業務を?
安宅 2020年4月から約5年間、様々なプロジェクトに携わりました。特に大きな挑戦の一つが、商品の品揃え・発注・値引きをAIが推奨するシステム「AI.CO(AI Customized Order/AI Consultant)」の開発です。 ローソンの商品本部・営業本部・ITソリューション本部など、複数の本部が協力して取り組みました。
おにぎりやパン、お弁当、デザートといった多種多様な商品の「発注」は、その日の天気や過去の売り上げ実績を踏まえて、ローソンの各店舗が行っています。アルバイトの人手不足も続く中、この発注業務は店舗にとって負担になっていました。また、売れ残りによる食品ロスも、見過ごせない社会課題でした。
そこで開発したのが、このシステムです。在庫や過去の販売状況、天候などをもとに、AIが発注数を予測します。売れ残り商品の値引き額や時間、個数の算出、提案もします。「何時に何個、いくら値引きするといいですよ」といった具合ですね。推奨を採用するかどうかは店舗に委ねられており、必要に応じて「ドライバ」という機能で店舗が推奨に対して意志入れすることも可能なため、AI.COによって店舗にとって理想の「売上・売場」を実現することができます。
「AI.CO」は2024年7月には全国の店舗への導入を完了しました。結果、機会ロス・廃棄ロス・値引き損の削減により店舗の粗利益を改善できたことに加え、「発注の精度が高いおかげで、食品ロスが減った」「発注業務の負担が減って、店舗経営が継続できた」などの声もいただいています。 DXによって社会課題解決の一助に寄与できたことはとてもうれしく、非常に大きな経験となりました。
経営者の“助手席” その責任の重さをかみしめながら

――皆さんの仕事への思いなどは、あらためて詳しく伺いますが(後編で紹介)、ここでは代表して畑中さんに伺います。日々の仕事で大事にしているモットーなどはありますか。
畑中 7年ほど前、ロンドンで再エネ関連の投資を手がけているDiamond Generating Europe(DGE)という会社にリスクマネージャーとして出向しました。その際、当時のDGEの社長から「あなたには、私の助手席に乗ってほしい」という言葉をもらったんです。「安全な路肩から『危ないですよ』と伝えるのではなく、一緒に同じ車に乗ってほしい。運命共同体としての信頼感があればこそ、あなたに危ないと言われたら私はブレーキを踏むことができる」と。
「もし、本当に危ないと思った時は、私を押しのけて力ずくでブレーキをかけてくれたら良い」という言葉に、それだけの覚悟が要るのだと気づきました。
まさに、リスク管理担当という仕事の立ち位置、そして責任の重さを言い表している言葉だなと思います。どんな案件も、自分も乗っている車で起こっている“自分ごと”として真剣に向き合う。常に心にとどめている教えです。
――「力ずくのブレーキ」とまではいかなくても、案件審査という業務上、厳しい意見を伝えなければならない場面は少なくないのでしょうね。
畑中 そうですね。事業投資総括部が審査に関わる案件はどれも、営業グループが長い時間と労力をかけて発掘してきた原石のようなものです。だからそこには案件に懸ける熱い思いがあります。
とはいえ、案件に内在するリスクを評価する過程で、冷静な指摘をしなければならない局面は日々あります。意見が対立して侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論になったり、自分よりずっと役職の高い人に反対意見を伝えたり……。胆力のいる仕事だとは思います(笑)。
ただ、三菱商事で共に仕事をする仲間は、みな真っ直ぐですごくパッションがあるんですよね。「この案件を成功させたい」「いい仕事をしたい」という根っこの部分の思いは、たとえ意見が違っても共有できている。その信頼感が健全な議論につながり、この仕事をするうえで大きなよりどころになっている気がします。
――皆さんのお話を伺って、コーポレートスタッフ部門の仕事に対する固定概念が覆されました。
畑中 コーポレートスタッフ部門というと、仕事の内容もやり方も決まっている「定型的」「静的」な業務をしていると思われがちなんですが、私たちの仕事に関しては少し違うかなと思います。
とくに近年の三菱商事は、事業の中に入り、主体的に価値を生み出し、成長していく「事業経営」にシフトしています。そして、事業環境の変化に合わせて経営資源を次の「成長の芽・成長の柱」に入れ替える「循環型成長モデル」も推進しています。ですからそれをサポートするコーポレートスタッフ部門にも、常に新しい情報にキャッチアップし、新たな課題に向き合うことが求められます。常に新しいチャレンジができる、刺激的でとてもやりがいのある環境だと思いますよ。
次回は、コーポレートスタッフ部門座談会の後編を掲載します。