妻の友人Aさんの話だ。
Aさんはある小規模な職場でパートをしていた。雇用主と、数人のパートで回す現場。契約は「扶養範囲内」だが、実態は違った。自分も、他のパートも明らかに残業が多すぎる。どう計算しても扶養内に収まるわけがない。Aさんはずっと違和感を抱いていたそうだ。
ある日、Aさんはパートを牛耳るリーダー格の「Bさん」に呼び出された。
「もっと働きたくない?」
え?そんなリスクあることをするの?と思った(私が知らないだけで、よくあることなの?)。
Bさんも含めた他のスタッフは、雇用主のポケットマネーから現金渡しを行っているらしかった。
税金や社会保険を無視することで、雇用主はコストを浮かせ、パート側も所得制限を気にせず現金を得る。一見、全員の利害が一致しているようだが、その実態は、法を破壊して浮いた金を山分けする「共犯関係」。
その後の話はさらにひどい。
そして一番最低なのは、その共犯関係に乗っかれない人間を、職場から排除しようとする圧力があったんだ。
ご想像の通り、Aさんがこの歪んだ慣習を拒絶すると、露骨な嫌がらせが始まった。結局、彼女はメンタルを崩して退職することになったようだ。
「仕方ない」
「バレなければいいじゃん」
「この方法が一番俺たちが得ができる」
こういう種類の免罪符、私は心底嫌いだ(私自身のASD傾向も影響していると思う)。
利害が一致していれば不正が許されるのか。自分たちの不正を維持するために、正直に働こうとした人間を潰す。その排除の論理が、何よりも気持ち悪い。
小規模な組織ほど、ピラミッドの頂点にいる人間が悪人化し、権力を恣意的に使う。水戸黄門なら印籠ひとつで片付く話かもしれないが、現実はそんなに都合よくはいかない。
それに、彼らの利得を支えているのは誰か。回り回って、それは真面目な納税者だ。この文章を読んでいるあなたも、私もだ(あ、脱税しているお前…!…俺はお前を許さない)。彼ら彼女らが税金や社会保険料を誤魔化す分だけ、正直に払っている側の負担が増す。この「不公平の再分配」が、何より耐えがたい。
自分は公正社会信念が人一倍強い。建前と実態がズレている環境にいると、身体の内側がざわざわして耐えられない。
通報しよう。そう妻に言った。妻には反対された。
その通報が原因で職場に特定され、せっかく職場を離れたAさんに火の粉が飛ぶのを恐れたからだ。
直接の当事者はAさんであり、私はただ聞いた立場だ。誰かを指弾する権利はない。
でも、知ってしまった以上、何もしないのは精神衛生上、無理だった。
労基署と税務署に匿名で情報提供した(労基署も必要だったのかどうかはよくわからない)。
「伝聞であること」「確証はないこと」を添えて。あくまで「こういう構造があるようだ。聞いてくれ。見てくれ」と。
正義の味方ぶるのは、正直、少し気分がよかった。
話を聞いて嫌な気分になったけど、少し上向いた。トータルの気分は-2%くらいになった。
もちろん、こんなことで社会がすぐに変わるなんて1ミリも思っていない。こんなフワフワした通報は、たぶん、どこかのファイルに積まれて終わりだろう(この程度のことで話が動くのかどうか、詳しい人には教えてもらいたい)。
不正を「山分け」し、正直者を排除するこの構造を、「なかったこと」にするのだけは、どうしても我慢がならなかった。
確定申告すればよかっただけじゃん