資産を運用しながら取り崩す計画を検討する。長いと思ったら最後だけ読めばいい。
現代ポートフォリオ理論における接点ポートフォリオを念頭に、市場には単一のリスク資産[tex:P_t]と無リスク資産[tex:Q_t]があり、[tex:P_t]は最も基礎的なモデルである幾何ブラウン運動に従うと考える。すなわち、[tex:P_t]は期待収益率[tex:\mu]、標準偏差[tex:\sigma]、標準Wiener過程[tex:W_t]を使った確率微分方程式
[tex:\frac{\mathrm{d}P_t}{P_t} = \mu\mathrm{d}t + \sigma\mathrm{d}W_t]
に従うと仮定する。これを解くと
[tex:P_t = P_0 \exp\left(\left(\mu-\frac{\sigma^2}{2}\right)t + \sigma W_t\right)]
が得られる。[tex:Q_t]は無リスク金利[tex:r_0]を使い、
[tex:\frac{\mathrm{d}Q_t}{Q_t} = r_0\mathrm{d}t]
に従い、[tex:Q_t = Q_0e^{r_0t}]という形をしている。
[tex:P_t]と[tex:Q_t]を適当な比率で保有して引き受けるリスク量を調節することを考える。保有量[tex:w^P_t, w^Q_t]を使い、ポートフォリオ[tex:X_t]を
[tex:X_t = w^P_t P_t + w^Q_t Q_t]
と構成し、保有する[tex:P_t, Q_t]の時価の比率が一定値[tex:\lambda]になるようにリバランスするとすると、
[tex:\begin{align*}&w^P_t P_t = \lambda X_t\\&w^Q_t Q_t = (1-\lambda)X_t\end{align*}]
を課すことになる。また、追加の資金投入なしにリバランスすることを考えるとself-financing条件
[tex:\mathrm{d}X_t = w^P_t\mathrm{d}P_t + w^Q_t \mathrm{d}Q_t]
[tex:\frac{\mathrm{d}X_t}{X_t} = \lambda\frac{\mathrm{d}P_t}{P_t} + (1-\lambda)\frac{\mathrm{d}P_t}{Q_t} = (\lambda\mu+(1-\lambda)r_0)\mathrm{d}t + \lambda\sigma\mathrm{d}W_t]
が得られる。つまり、[tex:X_t]は期待収益率[tex:\lambda(\mu-r_0)+r_0]、標準偏差[tex:\lambda\sigma]の幾何ブラウン運動になっている。
引き受けるリスク量を[tex:\widetilde{\sigma} = \lambda\sigma]と置き、Sharpe Ratio[tex:S = \frac{\mu-r_0}{\sigma}]を使えば、期待収益率は[tex:r_0 + S\widetilde{\sigma}]と書ける。
これで引き受けるリスク量を調節バルブにして、Sharpe Ratioを変えない範囲でリスクとリターンのバランスを取ることができる。
運用でも取り崩しでも、額面金額ではなくインフレを考慮した値を扱いたい。
非常に大雑把には無リスク金利とインフレ率は同程度*0であり、無リスク資産で全ての額面を割ってやり、無リスク資産との比率を見ることにすればインフレの影響は自動的に組み入れられると考える。
[tex:\widetilde{X}_t = \frac{X_t}{Q_t}]
と置けば、
[tex:\begin{align*}&\mathrm{d}(Q_t\widetilde{X}_t) = r_0Q_t\widetilde{X}_t\mathrm{d}t + Q_t\mathrm{d}\widetilde{X}_t = \mathrm{d}X_t\\&\frac{\mathrm{d}\widetilde{X}_t}{\widetilde{X}_t}=\frac{\mathrm{d}X_t}{X_t}-r_0\mathrm{d}t=S\widetilde{\sigma}\mathrm{d}t + \widetilde{\sigma}\mathrm{d}W_t\end{align*}]
となり、正規化後の[tex:\widetilde{X}_t]は期待収益率[tex:S\widetilde{\sigma}]、標準偏差[tex:\widetilde{\sigma}]の幾何ブラウン運動に従う確率過程になっている。
リスク資産の取り崩しを考える前に、確定利回り[tex:r]で運用できている資産[tex:R_t]を期間[tex:T]だけかけて、等速[tex:c]で全て取り崩すことを考える。
[tex:R_t]が従うべき微分方程式は
[tex:\mathrm{d}R_t = rR_t\mathrm{d}t - c\mathrm{d}t,\quad R_T = 0]
であり、これを解くと
[tex:\begin{align*}&\mathrm{d}(e^{-rt}R_t) = -ce^{-rt}\mathrm{d}t\\&e^{-rT}R_T - e^{-rt}R_t = \frac{c}{r}\left(e^{-rT}-e^{-rt}\right)\\&c = \frac{rR_t}{1-e^{-r(T-t)}} = \frac{rR_0}{1-e^{-rT}}\\&R_t = R_0\frac{1-e^{-r(T-t)}}{1-e^{-rT}}\\\end{align*}]
という形で、選ぶべき取り崩し速度[tex:c]が得られる。
次に、リスク資産を含むポートフォリオを同様に期間[tex:T]だけかけて全て取り崩すことを考える。取り崩し量[tex:\widetilde{C}_t]は前項と同じ形にとり、[tex:\widetilde{X}]と同じ構成のポートフォリオに取り崩し項を加えたものを[tex:\widetilde{Y}_t]とすると、[tex:\widetilde{Y}_t]の従うべき確率微分方程式は
[tex:\begin{align*}&\widetilde{C}_t = \frac{r\widetilde{Y}_t}{1-e^{-r(T-t)}}\\&\frac{\mathrm{d}\widetilde{Y}_t}{\widetilde{Y}_t}=S\widetilde{\sigma}\mathrm{d}t + \widetilde{\sigma}\mathrm{d}W_t - \frac{\widetilde{C}_t}{\widetilde{Y}_t}\mathrm{d}t\end{align*}]
であり、これを解けば
[tex:\begin{align*}&\frac{\mathrm{d}\widetilde{Y}_t}{\widetilde{Y}_t}=S\widetilde{\sigma}\mathrm{d}t + \widetilde{\sigma}\mathrm{d}W_t - \frac{r}{1-e^{-r(T-t)}}\mathrm{d}t\\&\mathrm{d}\log\widetilde{Y}_t = \left(S\widetilde{\sigma} -\frac{\widetilde{\sigma}^2}{2}- \frac{r}{1-e^{-r(T-t)}}\right)\mathrm{d}t + \widetilde{\sigma}\mathrm{d}W_t\\&\log\widetilde{Y}_t = \widetilde{Y}_0 + \left(S\widetilde{\sigma} -\frac{\widetilde{\sigma}^2}{2}\right)t + \log\frac{e^{-rt}-e^{-rT}}{1-e^{-rT}} + \widetilde{\sigma}W_t\\&\widetilde{Y}_t = \widetilde{Y}_0 \frac{1-e^{-r(T-t)}}{1-e^{-rT}} \exp\left(\left(S\widetilde{\sigma} -\frac{\widetilde{\sigma}^2}{2}-r\right)t+\widetilde{\sigma}W_t\right)\\&\widetilde{C}_t = \frac{r\widetilde{Y}_0}{1-e^{-rT}} \exp\left(\left(S\widetilde{\sigma} -\frac{\widetilde{\sigma}^2}{2}-r\right)t+\widetilde{\sigma}W_t\right) = \widetilde{C}_0 \exp\left(\left(S\widetilde{\sigma} -\frac{\widetilde{\sigma}^2}{2}-r\right)t+\widetilde{\sigma}W_t\right)\\\end{align*}]
が得られる。正規化していたものを元に戻せば、この戦略での資産額の推移と取り崩し額は
[tex:\begin{align*}&Y_t = Y_0 \frac{1-e^{-r(T-t)}}{1-e^{-rT}} \exp\left(\left(S\widetilde{\sigma} -\frac{\widetilde{\sigma}^2}{2}-r+r_0\right)t+\widetilde{\sigma}W_t\right)\\&C_t = C_0 \exp\left(\left(S\widetilde{\sigma} -\frac{\widetilde{\sigma}^2}{2}-r+r_0\right)t+\widetilde{\sigma}W_t\right)\\\end{align*}]
となる。[tex:r]は取り崩し速度の調節に使えるパラメタであるが、[tex:r=S\widetilde{\sigma} -\frac{\widetilde{\sigma}^2}{2}]ととり、引き受けたリスクによる超過収益分を取り崩すように設定するのが自然で、代入すれば
[tex:\begin{align*}&Y_t = Y_0 \frac{1-e^{-r(T-t)}}{1-e^{-rT}} e^{r_0t+\widetilde{\sigma}W_t}\\&C_t = C_0 e^{r_0t+\widetilde{\sigma}W_t}\\\end{align*}]
が得られる。
取り崩し額の下限[tex:I_0]を適当に決めて、取り崩し額が期間中ずっと[tex:I_t=I_0e^{r_0t}]以上になることを取り崩し成功、一度でも下回ったら失敗とみなすことにする。
[tex:r=S\widetilde{\sigma} -\frac{\widetilde{\sigma}^2}{2}]ととった場合にはブラウン運動の反射原理を使って簡単に計算でき、正規分布の累積密度関数
[tex:\Phi(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^{x}e^{-\frac{u^2}{2}}\mathrm{d}u]
を使い、取り崩しの失敗確率は
[tex:\begin{align*}&P\left[\min_{0\le t \le T}\frac{C_t}{I_t} \lt 1\right]\\&=P\left[\min_{0\le t \le T}\widetilde{\sigma}W_t \lt -\log\frac{C_0}{I_0}\right]\\&=2\Phi\left(-\frac{1}{\widetilde{\sigma}\sqrt{T}}\log\frac{C_0}{I_0}\right)\end{align*}]
と書ける。(一般の[tex:r]の場合もやや煩雑ながら計算はできる。)
これをふまえて、具体的な値を入れてみる。初期資産[tex:Y_0=\text{1億円}]、取り崩し期間[tex:T=\text{60年}]*1、運用資産のSharpe Ratio [tex:S=0.7]*2、許容する年間資産変動の標準偏差[tex:\widetilde{\sigma}=\text{10%}]と設定すると、実効取り崩し率[tex:r]、初期取り崩し額[tex:C_0]は
[tex:\begin{align*}&r=S\widetilde{\sigma} -\frac{\widetilde{\sigma}^2}{2} = \text{6.5%}\\&C_0=\frac{rY_0}{1-e^{-rT}}=\text{663万円}\end{align*}]
であり、取り崩しの下限値を[tex:I_0=\text{300万円}]くらいにとると、失敗確率は
[tex:2\Phi\left(-\frac{1}{\widetilde{\sigma}\sqrt{T}}\log\frac{C_0}{I_0}\right) = \text{30.6%}]
ほどとなる。
つまり、今回の設定のもとでは資産1億円を60年かけて運用しつつ物価スライドしながら取り崩す*3とき、中央値が過剰に目減りしないくらいの取り崩しをするなら年額663万円ほど取り崩せるが、30%ほどの確率で取り崩し額は300万円以下まで下がるタイミングがある。
この設定のもとでは資産1億円でのFIREはやや厳しい。許容リスクを増やしたり、運用成績の想定を楽観的にしたり、好調時に資金をプールしておいたりなど、調節できる部分は多いが、根本的なとこで初期資産が足りていないように思う。
無リスク資産のみの運用で下限値の取り崩しを継続しようとする場合は300万×60年=1.8億円必要で、初期資産がそれに届いていない場合は、運用益で下限値分までカバーすることになる。
FIREに臨むにあたり、残りの人生で必要な生活費総額の下限値分くらいの資金を用意し、運用益はあくまで+αのものとするくらいが健全なのではないか。
本稿とは設定も戦略も異なるが、有名なトリニティスタディの場合、初期資産の4%を定額取り崩しをし、30年運用する想定で研究していたが、そもそも4%での取り崩しなら25年はもつのであり、初期資産が運用期間の大部分をカバーできる状態になっていることも書き添えておく。
数値を変えて計算してみたい人向けにスプレッドシートに式を書いて置いておく。使うときは編集権限のリクエストなどはせず、自分のところに[ファイル] → [コピーを作成]してから編集してほしい: 計算表。
*0: 日本では例外的に長期に渡って無リスク金利がインフレ率より低いが、他の多くの社会では政策金利を通してインフレ率と同程度以上に誘導されている。
*1: 40歳時にFIREし、最長で100歳まで生きる想定。
*2: やや厳しめな値。近年の好調な市場でならもう少し大きな値になるが、長期にはこのくらいだと想定する。
*3: 取り崩し期間終了時に残りの資産がちょうど0になるように、「全て」取り崩す想定。
FIREの計算は結局ところ インフレ率、投資成績(期待値、分散)、許容リスクあたりの未来予想値が根幹になるのが厳しい 読みが外れたらどうすんの、許容リスクとか言うけど破産して許容...
死ねば良いだけでは?
100歳で使い切ることを目標にしたらどうなるだろ
だいたい90歳にもなって資産が1億残ってても毎月旅行行くとか食費に金かけるとか出来なくなるんだから残り続ける計算が当たり前になってるのがおかしい
こういうのアホが甘い試算で憧れてんだよな 結果、高確率で資産残るくらいのバッファがないとちょっとした下振れて詰むのがわかってない
下ぶれで詰むほどリスク資産で持っとくな、っていうそれ以前の話だろアホ
こういうの何も知らずにもの言ってる典型。 長期のFIRE生活で債権だけ持つみたいなポートフォリオだと確定でインフレ負けする。 長期で安定生活したいのに株比率高めて持たないと破綻...
債権がインフレ負けするならそもそも債権投資の意味とは?
anond:20260718130351 anond:20260718104603 君らって2単語くらいしか覚えられなくて文脈の概念ないね? アメリカとかだったらそりゃ債権の金利(約4.5%)はインフレ率(約2.5%)そのものには勝つよ 税金無...
いちいち煽ってるのは何か意味があるの?
妄言吐いて訂正されてんだからまずは「ありがとう」だろ 思い付きで妄言吐いて粘って生きてるからずっと底辺なんだよお前は
ありがとう
おーすげえ、プロの煽りストの仕事ですね
アベノミクス以降の日本では実質金利がマイナスで、債券の金利がインフレ率に負けているのは正しい。 が、他の多くの社会では金利はインフレ率より少し高いくらいに推移するもので...
年を取ったら高い飯も美味しく感じなくなるし海外旅行も足腰立たず行けなくなるし(性的な消費はもちろん)、取り崩し額一定というのはつまりインフレ分目減りするのと往って来いなの...
要するにジャンボ宝くじ6億当てればいいだけの話じゃん?アホだろコイツ
数式をこねくり回す前にまずはアッパーマス層まで這い上がってこい😡 話はそれからだ、このタコ!😡
🦑ん✋(👁👅👁)🤚のか?