影響力増すグローバルサウス 分断進むほど「漁夫の利」

2023年02月23日11時00分

 ロシアによるウクライナ侵攻は、米欧やロシア・中国との分断を深めただけでなく、どちらにも与しない「グローバルサウス」に新たな光を当てた。グローバルサウスとは何か、どのような外交スタンスなのか、国際社会での影響力はどう変わるのか。アジア経済研究所の川村晃一氏に解説していただいた。

注目される「サウス」

 2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、米中対立が激化する時期と重なったこともあり、世界の分断をさらに深めようとしている。ウクライナを支持する米欧側につくのか、軍事侵攻をしているロシア側につくのか、世界中の国が踏み絵を迫られている。

 ところが、どちらにも与しない国が相当数あることも明らかになった。侵攻直後の22年3月2日に開催された国連総会でロシアに対する非難決議を採択すると、193カ国のうちインドや中国、ベトナム、南アフリカなど35カ国が棄権した。4月7日の国連総会緊急特別会合で、ロシアの国連人権理事会理事国としての資格停止を求めた決議を採択した際には、棄権する国がさらに増加。ブラジル、エジプト、メキシコ、タイ、インドネシアといった新興経済大国を多数含む58カ国に上った。

 これらの国々を含め、発展途上国・新興国のほとんどは、米欧や日本など西側諸国が課している対ロシアの経済制裁にも加わっていない。そうした国々は「グローバルサウス」のメンバーと称される。ウクライナ侵攻は、その独特の行動にスポットライトを当てることになった。

 グローバルサウスとは、アジア、中東、アフリカ、ラテンアメリカの地域に含まれる発展途上国や経済新興国の総称である。ただし、ここでいう「サウス」は単に、これらの国々が主に南半球に位置しているという地理的な位置を表しているだけではない。これらの国々でみられる経済発展の遅れや政治・社会的不安定が、先進諸国である「北」によって作り上げられた世界政治・経済の構造に起因するという認識から、「北」に対する「南」という呼び方がなされているのである。

大国インドネシアの苦悩

 08年の「リーマン・ショック」後の金融危機を契機として、先進国からなる「主要8カ国(G8)」に新興経済大国11カ国が加わって20カ国・地域(G20)首脳会議が始まったのは、グローバルサウスの世界経済に対する影響力が高まっていたためであった。G20は本来、国際的な経済協力を話し合う場だが、ロシアの軍事侵攻によって安全保障上の対立が持ち込まれた。奇しくも、22年にG20の議長国を務めたのが、グローバルサウスの大国の一つ、インドネシアだった。

 インドネシアは、G20サミットが始まった08年当初から、「東南アジア唯一の参加国として地域を代表する」という立場を取ってきた。初めて議長国を担った22年は「グローバルサウス全体を代表する」意識で会議を主導する心積もりだった。ところが、G20はロシアのウクライナ侵攻後、ロシアの排除を試みる米欧日とそうした動きを批判するロシア・中国などとが非難合戦する場と化した。

 首脳会議に先立って行われた各種の大臣会合では、ロシアの閣僚が発言しようとすると西側の代表が退席する事態が頻発。ロシア非難の文言を盛り込むかどうかで合意できずに一度も共同声明を出すことができなかった。このG20サミット開催を政権の「レガシー(遺産)」にしようと目論んでいたインドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、思わぬ事態に苦悩することになった。

「中立」外交に賞賛

 しかし、インドネシアはここで独自の外交力を発揮した。西側諸国によるロシア排除の要求を一貫して拒否した。軍事侵攻に対しては交渉による平和的解決を呼び掛けつつ、G20は経済協力を話し合う場であって対立を持ち込むべきではないとの立場を貫き、姿勢がぶれることはなかった。

 外交があまり得意ではないジョコ大統領自身も、各国首脳にサミットへの参加を呼び掛けた。ジョコ大統領は22年6月、ドイツで開かれたG7サミットに参加後、ウクライナの首都キーウを訪問してゼレンスキー大統領と会談。その足でモスクワに飛んでロシアのプーチン大統領とも会談し、両首脳にG20サミットへ出席するよう求めた。

 両国の首脳を直接訪問したのは、アジアの首脳では初めてだった。ジョコ大統領が紛争当事国の両首脳と会談できたのは、インドネシアが西側にもロシア側にも与しない中立の立場を取り続けていたからこそである。

 11月にバリ島で開催されたG20首脳会議は、そうしたインドネシアの外交努力が結実したものとなった。プーチン大統領は出席を見送り、ラブロフ外相が代理出席したが、ロシア側の出席を理由にボイコットした国はなかった。また、外交当局によるぎりぎりの交渉により、実現は難しいと思われていた首脳宣言の採択にもこぎ着けた。

 首脳宣言は冒頭部分で、「G20は安全保障問題を取り上げる場ではないが、世界経済に深刻な影響を及ぼしていることに鑑みて軍事侵攻について触れる」とした上で、「ほとんどの国がウクライナの戦争を非難」し、「核兵器の使用や威嚇は許されない」と明記した。一方で、「情勢に関して他の見解や異なる評価もある」と併記することでバランスをとり、首脳宣言に対するロシアの同意を取り付けた。

 その上で、「本来」の議題であった保健分野の国際協力、食料・エネルギ—安全保障、気候変動対策、デジタル経済の促進といった経済協力に関する項目を盛り込んだ。ロシアのウクライナ侵攻後に開かれた主要な国際会議では、対立によって共同宣言の採択が見送られ続けていたため、首脳宣言の採択を成し遂げたインドネシアの努力に、各国は賞賛を送った。

根強い不信感が背景

 ウクライナ侵攻という難しい状況下で発揮されたインドネシアの外交力は、一朝一夕に作られたものではない。第2次世界大戦の終結からまだ間もない1955年、インドネシアは、植民地から独立したばかりの29カ国を集めて「アジア・アフリカ会議」を主宰した。開催地の名を取って「バンドン会議」とも称されるこの会議は、東西冷戦が激しさを増していた中、旧植民地国家が国際社会の一員であることを世界に認知させることに成功した。

 この流れは、東西冷戦下で資本主義陣営にも社会主義陣営にも属さないことで国家の自立を守っていこうとする、第三世界の諸国による「非同盟運動」につながっていった。インドネシアを「新興独立国の雄」へと押し上げたバンドン会議と非同盟運動は、同国外交の原点となった。

 そうした中立外交を展開するにあたって指針となっているのが、「自主と積極」という外交原則である。インドネシアは人口や国土が大きいものの、国力という点では、政治的にも経済的にも先進国に劣っていると言わざるをえない。そこで、大国に支配されがちな国際社会で自国の存在感を示すため、特定の国との同盟関係に依存することなく、むしろ大国からの干渉を排除して外交の「自主」性を維持。同時に、「積極」的な外交の展開を目指すというものだ。

 こうした外交姿勢は、グローバルサウスの国々にある程度共通する。彼らは、数百年にわたって欧米諸国の植民地支配を受けた苦い経験を持つ。独立後も、政治・経済的に先進国に従属する立場へ追いやられた。欧米大国に対する根強い不信感を背景に、特定の国の支配は受けない、指示には従わないという思いをどの国も持っている。

 ウクライナ侵攻や米中対立が深刻化する中、対立する両陣営はグローバルサウスを自らの陣営に引き入れようと躍起になっている。しかし、非同盟運動の歴史を知れば、グローバルサウスの国々が短期的な利益と引き換えにいずれかの陣営に加わることはない、ということが分かるだろう。

 かつて支配する側にいた「北」の先進国は、グローバルサウスの源流をよく理解して、彼らの考えや行動を分析しなければならない。彼らの一つひとつの対外行動から「この国は我々の陣営に入った」とか「あの国は我々を裏切った」と判断するのはあまりに早計である。

引き入れは無駄

 しかも、忘れてはならないのは、現代のグローバルサウスは、冷戦時代とは比べものにならないほど経済力を付け、世界経済における存在感を増していることである。一部の東アジアの国々を除き、冷戦下では大国同士の対立に翻弄されるしかなかった「サウス」の国々も、グローバル化が進展するなかで世界経済との結びつきを強め、もはや先進国に従属するだけの存在ではなくなっている。

 アジア経済研究所の熊谷聡研究員らが中心となって行ったシミュレーションでは、米欧日と中露の対立で世界経済が分断された場合、中立国であるグローバルサウスが大きな「漁夫の利」を得るという分析結果が示された。しかも、分断が深刻なほどグローバルサウスはプラスの影響を得るという結果だ。世界の分断が進みつつあるこの時代、グローバルサウスの国々にとっては、中立であることがまさに自国の利益になるのである。この点からも、グローバルサウスをいずれかの陣営に引き入れようとする試みがいかに無駄なことかが分かるだろう。

 インドネシアを引き継いで23年のG20議長国となったのはインドである。インドも、インドネシアとならんで冷戦時代から非同盟運動を牽引してきた「サウス」の大国だ。インド政府は、23年1月に「グローバルサウスの声サミット」と題するオンライン会合を主催し、G20ではグローバルサウスの代弁者として振る舞う意志を示した。

 G20議長国は、インドの後もブラジル(24年)、南アフリカ(25年)とグローバルサウスの国々が続けて務めることが決まっている。国際社会におけるグローバルサウスの影響力がますます高まっていくことは間違いない。


川村 晃一(かわむら・こういち)

 アジア経済研究所・地域研究センター次長。専門はインドネシア政治研究、比較政治学。早稲田大学政治経済学部卒、ジョージ・ワシントン大学大学院国際関係学研究科修了。1996年アジア経済研究所入所。2002年から04年までガジャマダ大学アジア太平洋研究センター客員研究員。主な著作に、『教養の東南アジア現代史』(共編著、ミネルヴァ書房、2020年)、『2019年インドネシアの選挙-深まる社会の分断とジョコウィの再選』(編著、アジア経済研究所、2020年)など。

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