会員限定記事会員限定記事

【中国ウオッチ】中国と台湾、相互敵視状態に◇手詰まりの「祖国統一」

2025年03月25日12時00分

 台湾の頼清徳総統は中国を「域外敵対勢力」と見なすと宣言した。中国側はもともと、民進党政権を台湾独立(台独)勢力と決め付け、目の敵にしているので、中台関係は公式に互いを敵視する状態となった。習近平政権は台湾を併合対象として威圧と浸透を強めてきたが、かえって強い反発と警戒を招き、その「祖国統一」政策は手詰まりに陥っている。(時事通信解説委員 西村哲也)

 【中国ウオッチ・過去記事】

「域外敵対勢力」と断定

 頼総統は3月13日、国家安全保障に関する会議を開いた後の記者会見で、中国が台湾に与える「国家安保・統一戦線関係の5大脅威」について説明した。統一戦線工作とは、共産党以外の団体・個人を政治的に取り込むことで、台湾も主な対象となっている。

 頼総統は、台湾では近年、中国スパイ事件が急増し、現役・退役軍人が起訴されるケースが多いと指摘。また、中国側は台湾人の国家に対する認識を混乱させ、台湾内部の対立をあおっていると主張した。そして、中国について「既に反浸透法が定義する『域外敵対勢力』となった」と断定し、その脅威と対応策を以下のように列挙した。

 (1)(台湾の)国家主権に対する中国の脅威に対処する。台湾があってこそ、中華民国がある。われわれの国家は中華民国、台湾、または中華民国台湾と呼ばれている。中華民国台湾の前途は必ず2300万の台湾人民が決めなくてはならない。国家安全会議などに対し、中国による台湾併呑(へいどん)に反対する全住民のコンセンサスと決意を示す平和的アクションプランを推進するよう求める。また、中国の台湾併呑に反対するわれわれの国家意志と社会的コンセンサスを全世界に伝えるアクションプランを策定するよう求める。

 (2)国軍に対する中国の浸透・スパイ活動の脅威に対処する。軍事裁判法を全面的に見直して改正し、軍事裁判制度を復活させる。現役軍人が陸海空軍刑法に違反した軍事犯罪事案は軍事法院(裁判所)で裁く。(2013年の軍事裁判法改正後、平時は軍人の犯罪も一般の法院が裁くことになっていた)

 (3)中国が国家に関する国民の認識を混乱させる脅威に対処する。内政部(内務省に相当)などに対し、国民が中国の旅券、身分証などを申請する問題で徹底的な調査・管理を行うよう求める。

 (4)中国が両岸(中台)交流を通じて台湾社会に統一戦線工作を行い、浸透する脅威に対処する。関係機関は、中国旅行に対する国民のリスク意識を高める必要がある。公職者の訪中情報は公開しなければならない。中国の統一戦線関係者の台湾訪問を厳しく規制し、台湾で統一戦線の性質を持つ活動をすることを禁止する。中国が文化面の統一戦線で台湾の主体性を弱めるのを阻止する。関係機関は、中国がインターネットや人工知能(AI)などを通じて、台湾に認知作戦(人間の認知を操作する工作)を行い、サイバーセキュリティーを損ねるのを防がなくてはならない。

 (5)中国が「融合発展」を通じて台湾のビジネスマンや青年を引き付ける脅威に対処する。国家安全会議などに対し、「台湾優先」の経済戦略に基づいて、対中経済関係に関して戦略的構造調整を行い、中国の経済面の統一戦線や脅迫に有効に対応するよう求める。

 また、総統府報道官は16日、日本、フィリピン、オーストラリアなども中国の認知戦などの影響を受けているとして、インド太平洋地域の関係各国に注意を促した。

 「非平和的方式」を警告

 中国国務院(内閣)台湾事務弁公室の報道官は13日、頼総統の宣言についてコメントを出し、「両岸平和の破壊者」「台湾海峡危機の製造者」と非難。もし台湾問題で「台独」勢力がレッドライン(越えてはならない一線)を越えれば、「われわれは断固たる措置を取らざるを得ない」と警告した。

 北京では翌14日、「反国家分裂法」施行20周年の座談会が開かれ、習政権ナンバー3で全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員長の趙楽際氏が演説した。趙委員長は頼総統の宣言に直接触れなかったが、台湾が中国から分裂したり、平和統一の可能性が完全になくなったりした場合、「非平和的方式」を採るという同法の規定を指摘した上で、「われわれは決して武力使用の放棄を確約しない」と強調した。

 頼総統が言及した反浸透法は20年制定。同法で域外敵対勢力は「わが国(台湾を指す)と交戦する、もしくは武力で対峙(たいじ)する国家、政治実体または団体」「非平和的手段によって、わが国の主権に危害を加えると主張する国家、政治実体または団体」とされている。

 頼総統が中国を域外敵対勢力と見なすと宣言した翌日に、中国指導者が自らそれを裏打ちする演説をした形となった。というより、頼総統はわざとこのタイミングで域外敵対勢力論を打ち出し、中国側は頼総統の想定通りに反応したのだろう。

 もっとも、「非平和的方式」を実行する人民解放軍は今、反腐敗と派閥抗争で大混乱なので、武力統一作戦の準備どころではあるまい。

中国ウオッチ バックナンバー

話題のニュース

オリジナル記事

(旬の話題や読み物)
ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ