スズキ、独り勝ちの様相 「インド一本足打法」に危うさも【けいざい百景】

2025年04月02日11時00分

 日産自動車を筆頭に国内自動車メーカーの業績に暗雲が垂れ込める中、「独り勝ち」の様相を呈している会社がある。軽自動車「アルト」や「ジムニー」、「ワゴンR」などを世に放ったスズキだ。米国や中国での不調による他社の失速を尻目に、2025年3月期連結純利益は過去最高水準の3700億円に達する見通し。国内で発表した新型車もたちまち人気となり、快進撃が続く。ただ、最大の収益源であるインド市場への依存は危うさもはらむ。より高みを目指す上で、「一本足打法」から脱却できるかが命運を分けそうだ。(時事通信経済部・木元大翔)

米中撤退は「けがの功名」

 「スズキと言えばインド」といっても過言ではない。昨年末に死去したカリスマ経営者、故・鈴木修相談役の下で1980年代前半に進出し、インド市場で圧倒的な地位を占めた。今でこそ、韓国・現代自動車や地場メーカーの追い上げでシェアを下げたが、それでも40%程度のトップシェアを維持する。5兆円を超えるスズキの売上高のうち、約4割を稼ぐ主力市場だ。

 筆者が昨秋、出張でインドを訪れた際、2~3台に1台はスズキ車が走っている印象を受けた。14億人超が暮らすインドは車の需要が強く、スズキは最重要拠点と位置付ける。こうした需要増への対応や輸出拠点としての役割強化のため、工場新設などにも積極的で、25~30年度の新中期経営計画では、24年に累計206万台だった生産体制を400万台規模にし、シェア50%を「奪還」する目標を掲げた。

 日本の乗用車メーカーは24年度、稼ぎ頭としてきた米中市場で苦戦を強いられた。25年3月期連結決算で800億円の赤字転落を見込み、ホンダとの経営統合協議も決裂した日産の不振の主因も米中にある。日産は米国で人気が再燃するハイブリッド車(HV)の車種不足という構造的な課題を露呈したが、他のメーカーも競争激化によるインセンティブ(販売奨励金)の増加が収益を圧迫した。中国では比亜迪(BYD)など地場のEVメーカーが低価格も武器に販売を急拡大し、日系メーカーは後れを取る。

 一方、スズキは現在、米中両国に四輪車を展開していない。過去には進出し、思うように売れず撤退したのが実情だが、結果的にこれが「けがの功名」となった。トランプ米大統領による関税引き上げの影響も、他の日系自動車メーカーに比べて極めて軽微だ。インドは現代自動車など韓国勢の攻勢は激しいものの、不安定な中印関係などから中国勢の進出はさほど進んでおらず、比較的安定して収益を伸ばしている。

「次なるインド」はどこに

 ただ、インドという巨大市場への依存構造は、状況次第で致命的な弱点にもなり得る。中国を中心とする海外車が勢いを増すような事態がインドでも起きた場合、社の根幹を揺るがしかねない。自動車ジャーナリストの国沢光宏さんは「インド政府もスズキを頼りにしており、いい関係を保っているが、インド以外では販路を広げられていない」と指摘。この点は鈴木俊宏社長も認めており、「依存度の高いインドで何かあれば、各社が抱えているような状況になる。集中する割合は低くしたい」と話している。

 米国のように大型車が好まれる市場では、小型の車を売りとするスズキ車は受け入れられにくい。一方で、中東やアフリカでは、女性の社会進出が進んだ影響などから小型車の需要が高まりつつあるという。両地域はインドからの地理的距離も近いため、インドで生産した車を仕向けやすく、スズキは「次なるインド」として基盤を強化したい考えだ。

「修イズム」継承と脱却へ

 低価格で実用的なスズキ車は当然、日本でも人気だ。55年に軽「スズライト」で四輪車市場に進出し、79年に「全国統一価格47万円」をうたったアルトの爆発的ヒットで一気に知名度を高めた。その後のワゴンRや小型車「スイフト」、軽「ハスラー」などで着実に地歩を固め、25年3月には日本国内での四輪車累計販売台数が3000万台に到達。日本はインドに次ぐ安定市場と位置付けられ、今後もハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などのラインアップ拡充を見込む。

 新型車も好調だ。昨年発売したインドからの逆輸入SUV(スポーツ用多目的車)「フロンクス」は事前のプロモーションが奏功し、堅調に推移している。とりわけ、四輪駆動の軽「ジムニー」シリーズとして初の5ドアとなる「ノマド」は今年1月30日の受注開始以降、当初計画を大きく上回る注文殺到でいったん受注を停止する初の事態に。先読みが甘いともいえるが、うれしい悲鳴であることは間違いない。

 そして、今日までのスズキの歩みは故・修氏を抜きには語れない。78年の就任から長年経営トップに君臨したワンマン経営者として負の側面もあったが、現在のスズキの礎を築き上げた功績は大きい。

 とはいえ、25~30年度の新中計は、修氏不在の「新たな挑戦」となる。長男の俊宏社長は、修氏について「良い教師でもあり、反面教師。継ぐところは継ぎ、捨てるべきところは捨てたい」と強調。「修イズム」の継承と脱却が、快進撃を続けるスズキに課せられた使命でもある。(2025年4月2日掲載)

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