「フードスケープ」を研究、建築士の挑戦 農の循環体現する都市建築

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聞き手・松尾一郎
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 一見、市街地の密集地で普段みかける6階建てのテナントビル。しかし、上層に向けて階段状になった外観は、やがて「段畑のような空中庭園」に――。

 日光や雨風をいかす「農の循環を体現できる建築」が昨年末、東京都渋谷区富ケ谷に完成しました。建築面積約85坪、延べ床面積約333坪のスペースにさまざまなアイデアを詰めこんだ建物を手がけたのは、大手ゼネコン・竹中工務店

 担当した同社の建築士、正田智樹さん(34)は、世界各地の食がつくる建築と風景「フードスケープ」を研究してきました。その学びのエッセンスを少しでもいかしたい、と挑んだ第1弾だといいます。正田さんが提唱する「フードスケープ」とは。そのエッセンスがこれからの都市建築に与える価値とは。聞きました。

竹中工務店設計部・正田智樹さんインタビュー

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 「ほぼすべて食べられます」。正田さんは屋上テラスの菜園の小さな緑を指さした。オリーブにイチジク、アケビにサンショウ、ローズゼラニウム、セージ……。食べられる植物の苗木は、自然に吹き込む風雨と日光を浴びて育っていく。雨水は、屋上の菜園に落ち、そこから下につながる側壁のかご(蛇篭〈じゃかご〉)の中の砕石を通り、蛇篭から下がった鎖樋(くさりとい)を通じて、下層各階の菜園や花壇に流れていく構造だ。自然の力で食べ物を育てるための建物の機能が独特のデザインを作りだし、周囲の景観に溶け込んでいく。フードスケープ研究で見いだした要素を盛り込むことができたという。

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建築面積約85坪のビルに自然との接点

 ――このテナントビルですが、特長とその価値は?

 自然との接点を多く設けたことです。

 具体的には段々形状の建物の特性をいかし西側にテラスを設け、その部分に菜園とウッドデッキを設けたこと。菜園にはハーブ類や実のなる植物を植えたことでお世話をしたり、収穫したり、においを楽しむことができる。また、菜園をいかすために段々テラスに降った雨の流れを「見える化」しています。

 そうして、視覚、嗅覚(きゅうかく)、聴覚といった身体と自然の触れあいを都市の中で持つことはとてもこれからの価値になることだと考えます。そこから大きな楽しみを得ることができることを、「価値」だと人々が認識してくれると、こうした建物をどんどん都市の中でつくっていけるようになります。

 ――この建物にいかしたフードスケープの概念とは?

 食べ物を作るには「材料の変化」と「工程」があります。

 私の好きなワインで説明すると、「生育中の果実」(ブドウ畑)→果汁(圧搾)→ブドウのアルコール(発酵・熟成)→ワイン(瓶詰め)と変化していきます。

 各工程ごとに、建築があり、そこに道具や機械などが配置されていきます。そうした各工程には光・熱・風など地域特有の自然を建築によっていかしている工程がある。栽培時に利用するパーゴラ(ブドウ棚)などは地域の風通しや光の当たり具合を調整し、食と自然をつなぐためにしつらえています。そうした食べ物が生産されるまでの各工程を一つながりにした結果見えてくる風景を「フードスケープ」と呼んでいます。

 ――2023年に『フードスケープ:図解 食がつくる建築と風景』(学芸出版社)を出したきっかけは。

 普段私たちが食べているもの…

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この記事を書いた人
松尾一郎
デジタル企画報道部|Re:Ron+データジャーナリズム担当
専門・関心分野
地方政治、旧ソ連、国連、民族問題、科学