同じメニュー、同じ値段。
今度は受け皿付きのグラスが出てきて、店員さんがゆっくり酒を注ぎ始める。
「もう十分じゃない?」
と思っても止まらない。
ついには受け皿に、とくり、とくり、と酒がこぼれる。
「ああ、この店、分かってる。」
もちろん、冷静になれば思う。
どうせ量は180mlなんだろう。
受け皿にこぼした分を含めて180mlなのかもしれないし、実はどちらの店舗もほとんど変わらないのかもしれない。
気分で飲む。
「こんなに注いでくれた」という気分は、数mlよりずっと価値がある。
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チェーン店なのだから、本当は店舗によって体験が変わるのは良くない。
でも、もし現場に少しでも裁量があるなら、「お客さんが嬉しくなる演出」に使える人は強い。
私は日本酒を飲みに行ったはずなのに、持ち帰ったのは「歓迎された」という記憶だった。
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人は100点の仕事を覚えているわけじゃない。
「そこまでしてくれるの?」
と思った仕事を覚えている。
ほんの一手間。
ほんの一言。
受け皿にこぼれる、あの数滴みたいなものだ。
たぶん、人はその数滴のためにリピーターになる。