渦巻銀河「M82」の詳細な姿を、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が初めてとらえた

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、ちりに阻まれて観測できなかった渦巻銀河「M82」のこれまでにない詳細な姿をとらえた。この写真はいかにして撮影が実現したのか。
Starburst Galaxy M82
渦巻銀河「M82」の画像。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線データとハッブル宇宙望遠鏡の可視光アーカイブデータ(黄色)を合成してつくられた。Photograph: NASA/ESA/CSA/Adam Smercina (STScI, Tufts)/Thomas Williams (University of Manchester); Image Processing: Alyssa Pagan (STScI)

地球からおおぐま座の方向に約1,200万光年ほど離れて位置する渦巻銀河「M82(Messier 82)」は、ほぼ真横から観測されることからエッジオン銀河とも呼ばれる。まるで葉巻のような姿ゆえに、「葉巻銀河」という愛称をもつ。

M82

NASAのハッブル宇宙望遠鏡が2006年3月27日から29日にかけて掃天観測用高性能カメラ(ACS)で撮影した「M82」。6枚の画像を合成したモザイク画像になる。

PHOTOGRAPH: NASA/ESA/HUBBLE HERITAGE PROJECT

この銀河では、近くの渦巻銀河「M81(Messier 81)」の重力的な影響によって爆発的な星形成が起きている。このためM82は「スターバースト銀河」とも呼ばれ、天文学者から注目されていた。ところがM82を観測しようにも、多量のちりが含まれていて詳細な観測が難しかったのだ。

M81 M82 NGC 3077

カリフォルニア州にあるパロマー天文台の48インチシュミット望遠鏡で撮影された渦巻銀河「M82」と「M81」、楕円銀河「NGC 3077」。M82では、M81との重力的な相互作用によって爆発的な星形成が起きている。

PHOTOGRAPH: DIGITIZED SKY SURVEY

こうしたなか、米航空宇宙局(NASA)などが運用するジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、これまでになく詳細なM82の様子をとらえた。多量のちりを透かして撮影したというが、いかにして実現したのか。

高感度の近赤外線カメラで長時間観測

これまでM82については、ハッブル宇宙望遠鏡やX線観測衛星「チャンドラ」など、多くの宇宙望遠鏡や地上の望遠鏡が観測を続けてきた。ところが、M82には多量のちりが含まれており、高精細に得られる情報には限界があったという。

そこで今回は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が搭載する高感度の近赤外線カメラ(NIRCam)を用いて、計65時間に及ぶ長時間の観測を実施した。波長が長くちりを透過しやすい赤外線を用いて、65時間もかけて暗い星の光まで集めたのである。

しかも、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡は直径6.5mと大きく、従来の赤外線望遠鏡と比べて感度も解像度も桁違いに高い。つまり、ちり越しにでも星を「粒」として見分けられる能力をもつ。こうして、これまでになく詳細にM82の様子を写し出すことに成功したのだ。

Starburst Galaxy M82

M82の中心部の同じ領域を写した画像。ハッブル宇宙望遠鏡の画像(左)と、このほど公開されたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の画像(右)を並べた。ハッブル宇宙望遠鏡の画像は、大部分が赤く見えるちりに覆われている。これに対してジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、ちりを透かし見ることで、M82の中心部を鮮やかに映し出している。

PHOTOGRAPH: NASA, ESA, CSA, ADAM SMERCINA (STSCI, TUFTS), THOMAS WILLIAMS (UNIVERSITY OF MANCHESTER); IMAGE PROCESSING: ALYSSA PAGAN (STSCI)

そうして明らかになったのが、M82の膨れたディスクの構造や約1,650万個もの恒星の数々である。例えばM82のディスクは、右側と左側で半径が異なっていることが判明した。これはM82がゆがんだ形をしていることを示唆しており、過去に他の銀河との激しい合体を経験した可能性も示しているという。

また、M82のディスクは中心に向かうにつれて明るさが増し、その形も非対称だった。これはM82が独特な内部構造をもっていることを示しているという。

Starburst Galaxy M82

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2025年3月15日に近赤外線カメラ(NIRCam)で撮影したM82。

PHOTOGRAPH: NASA/ESA/CSA/ADAM SMERCINA (STSCI, TUFTS)/THOMAS WILLIAMS (UNIVERSITY OF MANCHESTER); IMAGE PROCESSING: ALYSSA PAGAN (STSCI)

強烈な銀河風を吹き出す様子も見えた

M82はM81の重力的な影響を受けており、これによってガスが圧縮され、爆発的な星形成が起きている。その中心部では、天の川銀河全体の約10倍の速さで新しい恒星が誕生しているという。

Starburst Galaxy M82

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線データと、ハッブル宇宙望遠鏡の可視光アーカイブデータ(黄色)を組み合わせて作成された合成画像。約1,650万個の恒星(青白色)、ちりの粒子(赤橙色)、電気を帯びた水素ガスである電離水素ガス(黄色)などが写されている。

PHOTOGRAPH: NASA/ESA/CSA/ADAM SMERCINA (STSCI, TUFTS)/THOMAS WILLIAMS (UNIVERSITY OF MANCHESTER); IMAGE PROCESSING: ALYSSA PAGAN (STSCI)

さらに新しく誕生した恒星が放射する放射線や、それらが起こす超新星爆発などによって銀河風(銀河の内部から銀河の外部に向けてガスが大規模に流出する現象)が発生し、この銀河風によってもガスが圧縮される。こうして星形成は、さらに加速していくわけだ。

しかし、M82のこうした爆発的な星形成は、そう長くは続かないとされている。活発な星形成や激しい恒星風による流出によって、星形成の原料となるガスが枯渇していくからだ。これにより、数億年という天文学的に見れば短い期間で終了すると予測されている。

X線観測衛星「チャンドラ」によるX線観測データに基づく画像、スピッツァー宇宙望遠鏡による赤外線観測データに基づく画像、ハッブル宇宙望遠鏡の可視光と近赤外線観測データに基づく画像、そしてこれら3つを合成した画像。この合成画像によって、M82の恒星やガス、ちりなどの特徴が明らかになったという。

VIDEO: NASA/ESA/G. BACON (STSCI)

またM82の中心部からは、上下2方向にガスが吹き出している。これは強烈な銀河風で「スーパーウィンド」と呼ばれるものだ。画像では黄色と赤橙色で示されている。

M82のスーパーウィンドの拡大画像。2006年3月27日から29日にかけてハッブル宇宙望遠鏡がACSで撮影した。

M82のスーパーウィンドの拡大画像。2006年3月27日から29日にかけてハッブル宇宙望遠鏡がACSで撮影した。

PHOTOGRAPH: NASA/ESA/THE HUBBLE HERITAGE TEAM (STSCI/AURA)

星はどのように形成され、それがどのように銀河風を駆動するのか。M82は、それらに関する重要な物理的な過程を天文学者たちが調べることを可能にする特徴を備えているという。それゆえに「M82は銀河の進化に関する理想的な実験室なのです」と、今回の研究の主任研究員で宇宙望遠鏡科学研究所のNASAハッブルフェローでもあるアダム・スマーシナは、M82を評している。

M82

ハッブル宇宙望遠鏡とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の画像を比較した動画。

VIDEO: NASA, ESA, CSA, STSCI, ALYSSA PAGAN (STSCI)

(Edited by Daisuke Takimoto)

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