恒星は分子雲(星間空間を漂う冷たいガスやちりの塊)の中で誕生するが、その形成過程で周囲にガスやちりからなる円盤が形成される。惑星は、この原始惑星系円盤と呼ばれる円盤の中で誕生する。
そんな原始惑星系円盤のひとつである「IRAS 23077+6707」の姿を、このほどハッブル宇宙望遠鏡が鮮明に捉えた。一見して風変わりな見た目ゆえに、この原始惑星系円盤は「ドラキュラのチビート」という愛称で知られている。それにしても、いったいなぜ「ドラキュラのチビート」なのか。
この変わった愛称は、発見者たちが名付けたものだ。発見者のひとりであるチプリアン・ベルゲアはドラキュラ伝説の故郷であるトランシルヴァニアの出身で、IRAS 23077+6707の北側の端から伸びる2本のフィラメントが、まるでドラキュラの牙のように見えたという。
また、同じく発見者のひとりであるアナ・モスケラはウルグアイの出身だが、チビートはウルグアイの国民食である。チビートとは、牛肉やモッツァレラチーズなどを挟み込んだサンドイッチのことだ。こうしてIRAS 23077+6707は、「ドラキュラのチビート」と名付けられた。
しかし、米国に拠点を構える米航空宇宙局(NASA)の研究者たちには、また違ったように見えたのだろう。白く輝くガスとちりからなる上下の層が暗い中心部を挟み込んだ姿が、まるでハンバーガーのように見えたという。
IRAS 23077+6707の興味深さは、そのユニークな愛称だけではない。これまで観測されてきた原始惑星系円盤で最大のもので、しかもほぼ真横から観測できるのだ。太陽系を含む恒星系の形成過程については多くの難問が残されているが、その過程にまつわるさまざまな難問の解決に、IRAS 23077+6707が重要なヒントを与えてくれるかもしれないという。
ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)のクリスティーナ・モンシュは、「IRAS 23077+6707は恒星系の形成過程とそれが進行する環境について他に類を見ない新しい実験室となるでしょう」と期待をにじませる。なお、論文は『The Astrophysical Journal』に2025年12月23日付けで掲載された。
太陽の周囲に存在していた原始惑星系円盤を「原始太陽系円盤」と呼ぶ。太陽系の惑星たちはこの原始太陽系円盤から誕生した。それゆえ原始惑星系円盤を理解することは、太陽系の形成過程の理解にもつながる。この動画では、微惑星から地球型の惑星が成長する様子が描かれている。
直径は太陽系のおよそ40倍
IRAS 23077+6707は、地球からケフェウス座の方向に約1,000光年離れたところに位置している。これまで観測されてきた原始惑星系円盤のなかでも最大で、直径はカイパーベルト(氷天体や準惑星、彗星からなる円盤状の領域)を含む太陽系のおよそ40倍ほどにもなるという。
その質量は木星の質量の10倍から30倍に及ぶと見積もられており、複数の巨大ガス惑星の形成に十分な質量であると考えられている。なお、中心には高温の大質量星か、あるいは連星が隠されているのではないかと推測されている。
また地球から観測すると、ほぼ真横(エッジ)から観測できるのも特徴だ。このため「エッジオン円盤」と呼ばれる。
エッジオン円盤では、中心に位置する恒星の光が原始惑星系円盤によって遮られることで、円盤がシルエットになって浮かび上がる。このため円盤が観測しやすくなるほか、その垂直的な構造を観測することも可能になる。
なお、IRAS 23077+6707の中心部の暗い部分の周辺に見られる白い輝きは、中心の恒星からの光が原始惑星系円盤のガスやちりによって散乱されたものだ。これはエッジオン円盤によく見られる特徴のひとつである。
構造的な非対称性が特徴
IRAS 23077+6707の特徴のひとつは、北側と南側の非対称性だ。北側の端からはドラキュラの牙に見立てられた壮大な2本のフィラメントが伸びているのが見てとれる。だが、南側のより明瞭に見える端には、このようなフィラメントは確認できない。
このような構造的な非対称性は、円盤がダイナミックなプロセス、例えばガスやちりの落下や周囲の環境との相互作用によって形づくられている可能性を示唆しているという。
また、IRAS 23077+6707のもうひとつの特徴は、円盤の東側と西側から立ち上がる複数のフィラメント状の構造だ。類似する原始惑星系円盤においてこれまで天文学者たちが観測してきたものと比べて、より遠くまで伸びているという。
このフィラメント状の構造は、原始惑星系円盤の外層に由来する明るい物質と暗い物質によってつくられていると推測されている。だが、これらの構造の不規則な形態は、乱流や残留物の落下、重力の不安定さなどと関連する可能性がある活発な力学的活動の存在を示唆しているという。
「(IRAS 23077+6707のような)巨大な原始惑星系円盤における惑星の形成過程は、通常のそれとは異なるかもしれません。しかし、その根底にあるプロセスはおそらくよく似ているでしょう」と、モンシュは語る。「これらの画像は異なる環境において惑星がどのように形成されるのかを理解するスタート地点になるはずです」
今回の研究成果をわかりやすく解説した動画。
(Edited by Daisuke Takimoto)
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