愛称は“吸血鬼のサンドイッチ”!? ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた最大の原始惑星系円盤の姿

これまで観測されたなかで最大の原始惑星系円盤「IRAS 23077+6707」の鮮明な姿を、このほどハッブル宇宙望遠鏡が捉えた。「ドラキュラのチビート」という愛称で呼ばれているが、いったいなぜなのか。
IRAS 230776707
原始惑星系円盤「IRAS 23077+6707」の画像。米航空宇宙局(NASA)のハッブル宇宙望遠鏡が2025年2月に広視野カメラ3(WFC3)で撮影した。Photograph: NASA, ESA, STScI, Kristina Monsch (CfA); Image Processing: Joseph DePasquale (STScI)

恒星は分子雲(星間空間を漂う冷たいガスやちりの塊)の中で誕生するが、その形成過程で周囲にガスやちりからなる円盤が形成される。惑星は、この原始惑星系円盤と呼ばれる円盤の中で誕生する。

Shadow on TW Hydrae's Disk

地球からうみへび座の方向に約192光年離れたところに位置する若い恒星「TW Hydrae」の周囲に存在する原始惑星系円盤の画像。NASAのハッブル宇宙望遠鏡が2015年5月と16年3月に宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)で撮影した。下の列の画像は上の列の画像を画像処理したもので、暗い影の部分がより鮮明にわかりやすくなっている。この暗い影の部分については、TW Hydraeを公転している太陽系外惑星が原因となってつくられている可能性が示唆されている。

PHOTOGRAPH: NASA/ESA/J. DEBES (STSCI)

そんな原始惑星系円盤のひとつである「IRAS 23077+6707」の姿を、このほどハッブル宇宙望遠鏡が鮮明に捉えた。一見して風変わりな見た目ゆえに、この原始惑星系円盤は「ドラキュラのチビート」という愛称で知られている。それにしても、いったいなぜ「ドラキュラのチビート」なのか。

この変わった愛称は、発見者たちが名付けたものだ。発見者のひとりであるチプリアン・ベルゲアはドラキュラ伝説の故郷であるトランシルヴァニアの出身で、IRAS 23077+6707の北側の端から伸びる2本のフィラメントが、まるでドラキュラの牙のように見えたという。

また、同じく発見者のひとりであるアナ・モスケラはウルグアイの出身だが、チビートはウルグアイの国民食である。チビートとは、牛肉やモッツァレラチーズなどを挟み込んだサンドイッチのことだ。こうしてIRAS 23077+6707は、「ドラキュラのチビート」と名付けられた。

しかし、米国に拠点を構える米航空宇宙局(NASA)の研究者たちには、また違ったように見えたのだろう。白く輝くガスとちりからなる上下の層が暗い中心部を挟み込んだ姿が、まるでハンバーガーのように見えたという。

IRAS 23077+6707の興味深さは、そのユニークな愛称だけではない。これまで観測されてきた原始惑星系円盤で最大のもので、しかもほぼ真横から観測できるのだ。太陽系を含む恒星系の形成過程については多くの難問が残されているが、その過程にまつわるさまざまな難問の解決に、IRAS 23077+6707が重要なヒントを与えてくれるかもしれないという。

ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)のクリスティーナ・モンシュは、「IRAS 23077+6707は恒星系の形成過程とそれが進行する環境について他に類を見ない新しい実験室となるでしょう」と期待をにじませる。なお、論文は『The Astrophysical Journal』に2025年12月23日付けで掲載された

太陽の周囲に存在していた原始惑星系円盤を「原始太陽系円盤」と呼ぶ。太陽系の惑星たちはこの原始太陽系円盤から誕生した。それゆえ原始惑星系円盤を理解することは、太陽系の形成過程の理解にもつながる。この動画では、微惑星から地球型の惑星が成長する様子が描かれている。

直径は太陽系のおよそ40倍

IRAS 23077+6707は、地球からケフェウス座の方向に約1,000光年離れたところに位置している。これまで観測されてきた原始惑星系円盤のなかでも最大で、直径はカイパーベルト(氷天体や準惑星、彗星からなる円盤状の領域)を含む太陽系のおよそ40倍ほどにもなるという。

その質量は木星の質量の10倍から30倍に及ぶと見積もられており、複数の巨大ガス惑星の形成に十分な質量であると考えられている。なお、中心には高温の大質量星か、あるいは連星が隠されているのではないかと推測されている。

IRAS 230776707の画像に方位を重ねた画像。右下にある矢印は夜空における方角を示しているので、上が北、左が東になっている点に注意してほしい。

IRAS 23077+6707の画像に方位を重ねた画像。右下にある矢印は夜空における方角を示しているので、上が北、左が東になっている点に注意してほしい。

PHOTOGRAPH: NASA, ESA, STSCI, KRISTINA MONSCH (CFA); IMAGE PROCESSING: JOSEPH DEPASQUALE (STSCI)

また地球から観測すると、ほぼ真横(エッジ)から観測できるのも特徴だ。このため「エッジオン円盤」と呼ばれる。

エッジオン円盤では、中心に位置する恒星の光が原始惑星系円盤によって遮られることで、円盤がシルエットになって浮かび上がる。このため円盤が観測しやすくなるほか、その垂直的な構造を観測することも可能になる。

なお、IRAS 23077+6707の中心部の暗い部分の周辺に見られる白い輝きは、中心の恒星からの光が原始惑星系円盤のガスやちりによって散乱されたものだ。これはエッジオン円盤によく見られる特徴のひとつである。

ハービッグ・ハロー天体「HH...

ハービッグ・ハロー天体「HH 30」の画像。ハービッグ・ハロー天体は若い恒星が噴き出すジェットが周辺のガスと衝突することで形成される天体と考えられている。約50万歳とまだ若く、周囲には原始惑星系円盤が存在しており、地球から観測するとほぼ真横から観測できる(エッジオン円盤)。画像はハッブル宇宙望遠鏡が1995年1月から2000年2月にかけて広視野惑星カメラ2(WFPC2)を使って撮影したものだ。

PHOTOGRAPH: NASA, ALAN WATSON (UNIVERSIDAD NACIONAL AUTONOMA DE MEXICO, MEXICO), KARL STAPELFELDT (JET PROPULSION LABORATORY), JOHN KRIST (SPACE TELESCOPE SCIENCE INSTITUTE) AND CHRIS BURROWS (EUROPEAN SPACE AGENCY/ SPACE TELESCOPE SCIENCE INSTITUTE)

構造的な非対称性が特徴

IRAS 23077+6707の特徴のひとつは、北側と南側の非対称性だ。北側の端からはドラキュラの牙に見立てられた壮大な2本のフィラメントが伸びているのが見てとれる。だが、南側のより明瞭に見える端には、このようなフィラメントは確認できない。

このような構造的な非対称性は、円盤がダイナミックなプロセス、例えばガスやちりの落下や周囲の環境との相互作用によって形づくられている可能性を示唆しているという。

また、IRAS 23077+6707のもうひとつの特徴は、円盤の東側と西側から立ち上がる複数のフィラメント状の構造だ。類似する原始惑星系円盤においてこれまで天文学者たちが観測してきたものと比べて、より遠くまで伸びているという。

IRAS 230776707の詳しい構造を解説した画像。上の段の左から2番目の画像にある“wisps(わらなどの小さい束)”が、本文で紹介した円盤の東側と西側から立ち上がる複数のフィラメント状の構造のひとつになる。

IRAS 23077+6707の詳しい構造を解説した画像。上の段の左から2番目の画像にある“wisps(わらなどの小さい束)”が、本文で紹介した円盤の東側と西側から立ち上がる複数のフィラメント状の構造のひとつになる。

PHOTOGRAPH: MONSCH ET AL. (2025), THE ASTROPHYSICAL JOURNAL / HUBBLE REVEALS COMPLEX MULTISCALE STRUCTURE IN THE EDGE-ON PROTOPLANETARY DISK IRAS23077+6707

このフィラメント状の構造は、原始惑星系円盤の外層に由来する明るい物質と暗い物質によってつくられていると推測されている。だが、これらの構造の不規則な形態は、乱流や残留物の落下、重力の不安定さなどと関連する可能性がある活発な力学的活動の存在を示唆しているという。

「(IRAS 23077+6707のような)巨大な原始惑星系円盤における惑星の形成過程は、通常のそれとは異なるかもしれません。しかし、その根底にあるプロセスはおそらくよく似ているでしょう」と、モンシュは語る。「これらの画像は異なる環境において惑星がどのように形成されるのかを理解するスタート地点になるはずです」

今回の研究成果をわかりやすく解説した動画。

(Edited by Daisuke Takimoto)

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