ハーフマラソンに出場した人型ロボット、転倒やオーバーヒートでほとんどが完走できず

4月19日に北京で開催されたハーフマラソンに21体の人型ロボットが出場した。しかし、完走できたのはわずか6体であり、人型ロボットの限界が浮き彫りになった。
BEIJING CHINA  APRIL 19 A Humanoid robot called Tiangong runs after the finish line in the Beijing ETown Humanoid Robot...
4月19日、北京で開催されたハーフマラソンに出場した人型ロボット「天工Ultra」。Photograph: Kevin Frayer/Getty Images

4月19日土曜日。北京で開催されたハーフマラソンには、およそ1万2,000人の人間のランナーが出場した。とはいえ、ひときわ注目を集めたのは21体の人型ロボットである。

北京市の行政機関の複数部門を含む主催側は今回のイベントについて、人間と二足歩行ロボットの両方が参加する世界初のレースだと主張しているが、人間とロボットが走るコースは分けられていた。また、6体のロボットがレースを完走したが、人間の速度にはまったく追いついていなかった。

走る人型ロボット

最も速かったのは、中国のロボット企業UBTechと北京人型ロボットイノベーションセンター(Beijing Humanoid Robot Innovation Center)が共同開発した「天工Ultra(Tiangong Ultra)」というロボットだった。3回のバッテリー交換と1度の転倒を乗り越え、2時間40分で完走した。

人間のランナーに設定された制限時間は3時間10分だった。天工Ultraだけがこの時間内に走り切り、人間の参加賞の条件を満たすことができた。ほとんどの人型ロボットはスタート直後にレースから離脱し、ライブ配信からも早々に退場することとなった。

オレゴン州立大学でロボティクスの教授を務めるアラン・ファーンは『WIRED』に対し、こうしたロボットの開発者たちは、ロボットを速く走らせることよりも、さまざまなタスクをこなし、多様な環境に柔軟に対応できる能力の向上に重きを置いていると語った。また、ファーンによると、人型ロボットに搭載されているAI技術は、2021年にファーンのチームが開発した二足歩行ロボットを5kmのレースに出場させたころからあまり進歩していないという。

とはいえ、今回のレースは、人型ロボットのハードウェアがどれほど頑丈になったかを示しているとファーンは話す。

「5年ほど前までは、ロボットを安定して歩かせる方法すらわかっていませんでした。しかし、いまはそれができるようになり、今回のレースはそれを実演するよい機会です」。レース直前の先週木曜日、ファーンは『WIRED』に語った。ファーンのチームが2021年に5kmレースに出場させたロボットは2度転倒している。1回は操作ミスによるもので、もう1回は過熱が原因だった。

「5kmからハーフマラソンという長距離のレースに挑む上で、非常に重要なのはハードウェアの頑丈さです。どこか1社でもロボットを交換せずに完走させることができたら、それは驚くべきことです」とファーンは語る。

実用性は別問題

ファーンの予想は的中した。土曜日のレースでは、ほぼすべてのロボットが転倒し、オーバーヒートの問題に直面したため、多くの操縦者が機体を新しいものと取り替えていた。とはいえ、このレースは中国国内で大きな関心を集め、その成果に誇りを感じさせる出来事となった。人間のランナーは、「天工Ultra」を見つけると足を止めて自撮りを楽しんでいた。しかし同時に、このレースは中国の人型ロボット業界の現実と限界を浮き彫りにするものだった。

中国企業が開発した人型ロボットは、今年に入ってから世界的な注目を集めている。例えば、Unitreeという企業は、1月に国営テレビで放送された春節を祝う特別番組で多数のロボットによるシンクロダンスを披露し、大きな話題を呼んだ

Unitreeはこのレースに正式には参加していない。しかし、ほかの組織が運用するかたちで、同社製のロボット2体がハーフマラソンに出場した(そのうちの1体はスタートラインにたどり着く前に転倒し、なかなか立ち上がれなかった)。

ダンスのようなパフォーマンスは楽しく人目を引くが、それは現実の環境で人型ロボットがどれだけ実用的かを示すものではないと、ファーンは指摘する。ハーフマラソンを完走できたとしても、それはロボットの能力を測る上で重要な指標ではない。なぜなら、人間のランナーと競争できるロボットの需要があるわけではないからだ。

ファーンが重視する指標は、人間がこと細かに手順を指示しなくても、ロボットが現実の環境で多様なタスクをいかにうまくこなせるかどうかである。「とはいえ、中国は今年、もっと実用性に重点を移していくと思います。人々もダンスや空手の実演には飽きてくるでしょうから」とファーンは話す。

走りの限界

レースに参加したロボットたちは、さまざまな形状をしていた。最も小さいロボットの高さは、約74cmだった。青と白の運動着を着たこのロボットは、数秒おきに観客に手を振っていたので、おそらく観衆に最も気に入られていた。最も背が高かったのは今回の勝者である天工Ultraで、約175センチだ。

すべてのロボットに共通していたのは、車輪ではなく二足歩行で動くことで、これはレースへの参加条件だった。この条件さえ満たしていれば、各社は自由に工夫を凝らすことができ、ライバルに差をつけようとさまざまな戦略を用いていた。なかには子ども用のスニーカーを履いたロボットもいたが、靴が脱げないよう足の部分にネジで固定されていた。

転倒で繊細なパーツが壊れないよう、膝当てを装着したロボットもいた。多くのロボットは指が外されており、なかには頭部まで省かれているものもあった。そもそも走るにはそうした部品は必要なく、取り外せばロボットの重量が減り、モーターへの負担も軽くなる。

レースで際立っていたのは天工Ultraのほか、2位になった中国企業のNoetix Robotics開発のロボット「N2」だった。N2はペースこそ遅かったものの、安定した走りぶりでひときわ目を引いた。一方、ほかの人型ロボットの走りは、目も当てられないようなものだった。人間のような頭部をもつ「Huanhuan」というロボットは、カタツムリのような速度で数分間しか前に進まず、頭部はいまにも外れそうなほど激しく揺れていた。

「Shennong」というロボットはガンダムに似た頭部と、後方に向けて取り付けられた4基のドローン用プロペラを備えており、まるでフランケンシュタインの怪物のようだった。8つの車輪を備えた台座の上に載っていたこのロボットが、失格にならなかったのは不思議である。とはいえ、Shennongの最大の問題はそこではなかった。スタート直後にいきなり2回転し、壁に激突。その勢いで人間の操縦者たちを巻き込み、転倒させてしまったのだ。見ていて痛々しかった。

操縦者の奮闘

ガムテープは最も効果的な問題解決ツールだった。ロボットに同行していた人間たちは、ガムテープでロボットのために即席の靴をつくっただけでなく、走行中に繰り返し外れてしまうロボットの頭部を本体に固定し直していた。これは目を覆いたくなるような光景だった。

すべてのロボットには人間の操縦者が付き添っており、多くの場合2〜3人が並走していた。走行速度などを指示できる操作パネルを手にしている者もいれば、ロボットの前を走って地面の障害物を取り除こうとする者もいた。かなりの数の人型ロボットは、まるでペット用のリードのようなものに繋がれて走っていた。「このレースのロボットは、ラジコンカーを操縦して走らせているようなものだと考えていいでしょう。ただ、車輪が付いていないだけです」とファーンは語る。

レースの終盤になるとライブ配信を見ていた多くの視聴者が、ロボットの操縦者たちの疲れ切った様子についてコメントしていた。操縦者たちはロボットに進行方向を示し、バッテリーを必死に交換し、モーターを冷やすために何度もスプレーを吹きかけながら、自分たちもまた約21kmを走っていたのである(ほぼ歩いていたといったほうが正確かもしれない)。

レースの名場面

走ったり転んだりするだけでなく、ダンスやバク宙を披露するロボットもいた。会場近くのステージでも、7体の犬型ロボットと1体の人型ロボットがダンスを披露していた。最後には別のロボットがトロフィーを表彰台に運び、完走した4体の仲間のロボットに手渡した。

とはいえ、ロボットに限界があるからこそ記憶に残る場面も生まれた。Noetix Roboticsが開発したロボット「Xuanfeng Xiaozi」は序盤こそ順調だったが、レースの後半になるにつれて次第に故障が増えていった。うつ伏せに倒れ、頭部が胴体から外れてしまうこともあった。しかし、すぐに人間のチームがガムテープを手に駆け寄り、応急処置を施してXuanfeng Xiaoziを再び走らせた。

レースの終盤、Xuanfeng Xiaoziの前面には冷却パッドが貼り付けられ、右足と左足の動きもかみ合わなくなっていた。それでもなんとかふらつきながらゴールにたどり着くことができた。その先では、10分前にゴールして2位となった同じ会社のロボットが待っていた。

このハーフマラソンはロボットたちの優れた性能よりも、むしろ設計上の欠点を際立たせる結果となった。それでもXuanfeng Xiaoziが最後まで走り切ったのを見て、わたしは素直にうれしい気持ちになったのである。

(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma, edited by Mamiko Nakano)

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