「普遍性何パーセントにしますか?」作品の独自性との狭間で
2020.04.10
2020年代に入り、さらに隆盛を続ける日本のヒップホップシーン。
その主役としてラッパーに脚光が当たりがちだが、当然、ヒップホップという文化を形成しているのは彼らだけではない。ビートメイカー/プロデューサーの存在感も年々大きくなっている。
ラップを支えるだけではなく、楽曲の方向性、アーティストの個性、さらにはシーン全体の空気までをも醸成する存在──日本のヒップホップシーンにおいて、ビートメイカー/プロデューサーの名前もリスナーの間でも強く意識されるようになった。
その中でも、RhymeTubeさんは独特な立ち位置にいる。
空音「Hug feat. kojikoji」やRin音「snow jam」など、メロディックでポップなバイラルヒットの印象を持つリスナーも多いだろう。近年はFARMHOUSEさん(SUSHIBOYS)や新鋭・Kee Roozさんとの共作などでも、その存在感を示し続けている。
本人が見据えている理想像は、単なる“ビートをつくる人”ではない。
ビート/トラックだけで聴かせるのではなく、ラップが入って完成するヒップホップ。自分名義の作品と、ラッパーへのトラック提供の明確な違い。そして、自身の完全自主レーベル「KONROISGOODBOI」を立ち上げた理由。KAI-YOU Premium/KAI-YOU Videosでは、RhymeTubeさんが千葉県某所に構えるスタジオ兼自宅を訪ね、ロングインタビューを実施。
ラッパーとしてはじまったヒップホップのキャリア、ビートメイカーとしての苦悩、ヒット曲の裏側、インディペンデントへの移行、そして「託される側」から「託す側」へと変化していった現在ついて語ってもらった。
目次
- 「ラップもしていた」RhymeTubeのはじまりと挫折
- 「メロウなビートメイカー」というパブリックイメージとの葛藤
- 「自分が何かした」とは思えなかった大ヒット曲
- FARMHOUSEやKee Roozとの制作、そしてプロデュースの距離感
- レーベル「KONROISGOODBOI」を立ち上げた理由
- 「託される側」から「託す側」へ──ラッパー・日本猿との出会い
- 「だったら、自分でやって、何もかも自分のせいにすればいい」
- ビートメイカーの現実──アルバム『KOZMO』以降の停滞と、ゲームばかりしていた時期
- ヒップホップのメインストリームから少しズレる理由
- RhymeTubeの「まだシーンの中に入っていない」感覚
- 千葉に拠点を移して変わったこと、そしてRhymeTubeの現在地
──まず、現在に至るまでの経歴を、ご自身で紹介するとしたらどういう感じになりますか?
RhymeTube 最初に音楽をはじめた時は、ODD Foot WorksのPecoriっていうやつがいて。地元が一緒で、同級生というか学校は違うんですけど、高校の時からお互い知っていて。それでたまに遊んだりしていたんです。
そのPecoriと2人でグループをやっていたんですよね。それが最初です。その頃はビートメイカー/トラックメイカーというか、ラップもしていました。でもそこから徐々に、僕の中で裏方意識の方が強くなっていったんです。
ビートメイカーの方が性に合っているなと思うようになって、Pecoriとのグループが空中分解して、そこからプロデューサーに専念していくことになっていった感じですね。
Pecoriとやっていたのは、一応オルタナティブヒップホップみたいな感じでした。特に配信している曲とかはないんですけど、それが最初かなと思います。
──今も時々、ラップをされているイメージもあります。ちょいちょいされていますよね。
RhymeTube すごいちょいちょいですね。でも基本はやらないと思っています。
ただ今、自分のアルバムを制作している期間なんですけど、その中では何曲かやらざるを得ないというか……。誘いたい客演が全員OKしてくれるわけではないので、曲数的に自分がやらなきゃいけないところがあるんですよね(笑)。
でも、やりたくないというより、どちらかというと僕、歌詞を書けないんですよね。自分がラップしてまで言いたいこと、トピックがあまりないんです。昔からその部分に悩んでいて。だからラップに苦手意識がある。
でもビートをつくるという点では、具体的なトピックやテーマが重要というわけでもない。そういう意味でも、やっぱりビートをつくる方が好きというか、性に合っているんですよね。
RhymeTubeさんの音楽制作環境
──なるほど。それほどまでにラップが必要というか、ラップや声が入って楽曲として完成するものだと考えているんですね。
RhymeTube そうなんです。ベースミュージックとかハウスとか、2016~2017年ぐらいにヴェイパーウェイヴやフューチャーファンクが流行っていた時期も、インスト音楽はめちゃくちゃ聴いていました。
でも、自分がやるのはインストではないなと思っていて。それは、自分の音楽的ルーツが完全にヒップホップだからだと思います。ヒップホップは、やっぱりラップありきのものというところがある。自分のビートだけを作品として聴かせることは、あまり考えたことがないですね。
──RhymeTubeさんのビートを聴くと、音楽的に多様なバックグラウンドを感じさせます。それでも、明確にヒップホップがルーツなのですね。子どもの頃はどんな音楽を聴いていたのでしょうか?
RhymeTube 小学校のころは、まだちゃんと“好きな音楽”と認識できるものがなかったです。観てるアニメの曲くらい。
でも中学生になって、社会の先生が授業でキングギドラの「真実の爆弾」を流したんです。そして、3バース目に入る前に止めて「ここから先はまじでやべーんだよ」って言って(笑)。そこで、ぶん殴られた感覚になりましたね。
それとは別に、湘南乃風とかRIP SLYMEとか、ちょっとラップ調な曲を聴いたりするようになって。それを歌ったりしながら放課後友だちと帰ってたら、その先生が巡回してて「ライムが全然なってねえんだよ!」って言われて。じゃあやってみてよって返したら「ただ韻踏む、ごくシンプル、それも出来ずに有名人ぶる」って畳みかけてきて──またぶん殴られた感覚になりました。その時にこれはK DUB SHINEの「一目瞭然」って曲だと教えてもらって、そのまま帰りにTSUTAYAに行って、視聴機で聴きにいった覚えがあります。
中学から高校に変わるタイミングで、自分は服が好きだったんでBAPEとかの流れでTERIYAKIBOYZとかも聴いてたんです。そしたらちょうどYouTubeでSEEDA,OKI「TERIYAKI BEEF」が出てて、またぶん殴られて(笑)。そっから完全にCCG(「CONCRETE GREEN」※ )周りを聞くようになって。そこからBACHLOGIC一筋になっていきました。
※「CONCRETE GREEN」は、SEEDAとDJ ISSOによる日本語ラップのミックステープシリーズ。2000年代の日本語ラップシーンにおいて、SCARS、SD JUNKSTA、田我流、鬼など、後に存在感を高めるラッパーたちをいち早くフックアップしてきた。
──RhymeTubeさんのビートは、印象的でメロディックなものが多いなと思っていました。
RhymeTube そうなんですよね。もともと、やっぱり“メロウなビート”が得意だと思われるんです。例えば昔で言うと、空音くんやRin音くんのプロデュースした曲がすごくヒットしてくれて、そういうパブリックイメージも強く持たれた。
それはもちろん、良いことなんです。ただ、だからこそ、自分が思う理想のプロデューサー像とは少しずれていってしまったところもあります。
──そうなんですか。
RhymeTube 僕が最終的にかっこいいと思うプロデューサー像は、マルチなプロデューサーなんです。全部こなせるのがかっこいいという感覚がある。
でも、どうしても偏ってしまうんですよね。プロデュース曲の仕事があっても、やっぱりそういうビートをお願いされることが多くなってしまう。
そのせいか、制作のモチベーションがすごく下がってしまった時期がありました。浮き沈みは誰にでも大なり小なりあると思うんですけど、あまり活動していなかった時期がありました。5、6年ぐらい前ですかね。
──ヒット曲を出したことで、逆に求められることは自分のやりたい方向から離れてしまった。
RhymeTube もちろん、自分が関わった楽曲がたくさん聴かれるのは嬉しい。でも自分が本当にやりたいサウンドのプロデュースが思うようにできなくなってしまった、という感じです。
──とはいえ、RhymeTubeさんが手がけられた「Hug」や「snow jam」は、YouTubeで数千万回再生されているようなメガヒット曲です。日本のヒップホップ史の中でも稀有な楽曲です。そこでの手ごたえのようなものはなかったのでしょうか?
RhymeTube 空音くんの「Hug」やとRin音くんの「snow jam」は、彼らの功績ですよ。
僕はあくまで、プロデュースというよりトラック提供に近い感覚なんです。ただ、あの曲たちが尋常じゃない再生数を記録していたのも事実で。
あの2人が今どう思っているかはわからないけど、きっと彼らも新しく塗り替えたいと思っているはず。空音くんは「Hug」を超える曲をつくりたいと思っているだろうし。Rin音くんもそうだと思います。そして、僕もそうです。
だから今は、ああいうサウンドは一切やっていません。新しいプロデュースの方向に変わっている感じですね。
──さらに遡って聞きたいです。僕自身がそうなのですが、RhymeTubeさんの名前を意識的に見るようになったのが、2016年のJinmenusagiさんの楽曲「きっとこの夜も feat. ハシシ」でした。あの曲はどういう経緯で生まれたんですか?
RhymeTube あれは、RihiToさんというラッパーがいて。そのRihiToさんが当時つくっていたアルバムに、僕がいくつか提供していたんです。JinmenusagiさんとRihiToさんがすごく仲良しで。たぶんRihiToさんがデモをJinmenusagiさんに聴かせていたんですよ。
そしたら「これ誰ですか?」みたいになって、「RhymeTubeっていうトラックメーカーです」というところからつながった感じですね。それでお願いされて、ぜひという感じでやらせてもらったのが最初です。
──そこでの反響や感触はどうでしたか?
RhymeTube 僕、そもそもトラック提供であまり手応えを感じないんですよね。
──感じない、ですか。
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