ミラノ在住のビジネスプランナー・安西洋之氏は、米国、イタリア、ドイツ、フランス、英国、日本の元気な中小・ベンチャー企業にインタビューを重ねて『世界の伸びている中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓した。本書では、「海外には、日本で知られていない面白いビジネスがたくさんある!」ということで、海外の事例を中心に紹介されいてるが、日本にも面白い中小・ベンチャー企業はたくさんある。安西氏は「一般に、日本の起業は何かをスタートする時に前例や周囲を意識しすぎる傾向にある」と実感を述べ、「『面白い』を『自分の感覚として信じて前進する』と定義し、それを実践している人」を本書で紹介している。その人のひとりが糸井重里氏。安西氏がインタビューをして、分析した糸井重里氏が率いる株式会社東京糸井重里事務所の「成長に重要な3つの鍵」を本書より抜粋してお届けする。
コピーライターとして活躍している糸井重里氏が率いる株式会社東京糸井重里事務所は、1998年からウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」(略称「ほぼ日」)を運営しています。月間平均訪問者数は約117万人。あえて読者層を絞ることはせず、サイトで広告収入を得ることもしないそうです。
日々更新されストックされない(しかし、本にはなる)糸井氏自身の「コラムのようなもの」や様々な分野の人の対談など、ひたすら自前のコンテンツを作り上げることに集中し、手帳やTシャツ等のオンライン雑貨販売で売り上げをあげています。
10年以上続いている『ほぼ日手帳』は2012年、提携店のロフトを含み48万部の販売を記録しました。年間約30億円の売り上げで従業員は60人前後の同社は、業界他社と比べて収益の高さを誇っています。
通り一遍でいかない仕事は公私混同で突破する
糸井氏が盛んに強調することとは、「公私混同」です。もちろん会社のお金をくすねろというのではありません。人はそもそも公私に分けることはできないのだから、あえて分ける習慣を放棄せよということです。
ふと公園で聞いた見知らぬおじいさんの苦労話にジーンとくることに、それが仕事かどうかは関係ありません。コンテンツ制作者としての公的な自分としては涙をおさえ、私的な自分としては目に涙をためる、そんなことは不可能です。
したがって、読者も一人の個人として隣人であるかのように話しかけます。ここにビジネスのエッセンスがあるという意味での「公私混同」になります。
安西洋之著
(1,706円,クロスメディア・パブリッシング)
「著者はマルちゃんのラーメンがメキシコで売れていることを教えてくれた人 この人が書くものは面白い。」糸井重里氏(ほぼ日刊イトイ新聞)推薦!
世界の伸びている中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?
海外には、日本で知られていない面白いビジネスがたくさんある!
米国、イタリア、ドイツ、フランス、英国、日本の元気な中小・ベンチャー企業に聞きました。「成熟市場で勝ち残り稼ぐ知恵とは?」
国や文化の違いは障害ではなく商売のヒント! 日本企業のムダな敗北感は無用!?
本書は、中小・ベンチャー企業の経営、マーケティング、海外事業展開を担当する方にとって必須の情報を盛り込んでいます。
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同社CFOの篠田真貴子氏に聞いてみましょう。篠田氏は日本長期信用銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て米ジョンズホプキンス大学で国際関係の修士号、米ペンシルバニア大学ウォートン校でMBA(経営学修士)を取得した後、ノバルティスファーマとネスレという一見堅めの職歴ののち、一見柔らかめの糸井事務所に6年前に入社しました。
「国境超えを含め、通り一遍でいかない仕事は、程度の差はありますが公私混同すると突破しやすいのかもしれませんね。当社についていえば、『私』の部分にも『ほぼ日らしさ』が入っているから、『私』の動機や判断に依拠しても組織、ブランドの一貫性が保たれると考えています。
先日、アメリカの海兵隊の組織の特徴が糸井事務所のそれと共通するという話を、その方面に詳しい方に聞きました。戦闘現場では現場判断が最優先する。それを可能にするのは、明文化されたマニュアルより抽象度が高いドクトリンが徹底されているからです」
企業のビジョンは経営者の世界観により構築されることが多いのですが、その世界観を社員の一人ひとりが噛み砕いて自分のものとすることが求められています。ここで「噛み砕く」とは、自分の経験や考え方と会社の提示する世界観がかみ合うことです。
つまり「ビジョンを共有する」「世界観を共有する」という表現が一般に流通していますが、「共有する」とは「ミッションといえばこのようなもの」というイメージをメンバーが共有するだけでなく、それをメンバー自身の長い経験のなかに語彙として取り込むことです。だから社員でも現場で判断ができるようになるのです。
成長を数字だけで捉えてはいけない
篠田氏は企業の成長を数字だけで捉えることを避けます。
「まず、企業の『成長』を、売上、利益、顧客数などの定量化できるサイズ感だけで捉えるのではなく、『その企業が、成し遂げたい姿にどれほど近づけているか』と、定義を広げて考えたいと思います。世の中にまったく新しい価値をゼロから生み出す場合、定量化できる指標だけでは『成長』は測れないと考えているからです」
成長に重要な3つの鍵
「1つ目に、『どうあったら良いのか』という深い動機があります。2つ目は潜在市場が大きいこと。動機が本質的で普遍的な人間性に根ざしていれば、潜在市場は大きいはずです。3つ目は世の中の流れ、時代背景、時の運。要は、タイミングも大事ということです」
人の本質的な満足感にターゲットをおくということは、逆に言えばいわゆる人をえり好みしないということになります。年齢や職業などでお客のペルソナを作るのも、読者を囲い込むのも無意味です。すべての人が潜在顧客だからです。
「まず人が喜んで集まる状態を作って、稼ぎ方はそこから派生するというのが、糸井の持っているイメージだと思います。その根底にあるのは、ビジネスモデルの基盤ないし前提条件となるエコシステムについても、自分たちのイニシアチブで作りたいという姿勢です。エコシステムを他人に依存したビジネスモデル、例えばiPhoneを前提にしたアプリビジネスのようなものは、弱いし、面白くないという姿勢なのかな……とも思います」
これは本書の1章で紹介したインバウンドマーケティングの考え方に通じるところがあります。お客さんが自然と居心地の良さを感じる土壌を作ることを最優先しているのです。
『ほぼ日手帳』の海外ファンを増やす
『ほぼ日手帳』の海外への販売も独自の考え方をしています。
「実は日本国内でのみ販売している段階から、『ほぼ日手帳』の熱心なファンが台湾にいたのです。フェイスブックのページでも『いいね!』をクリックしている人たちの居住地を調べると、台湾が多かったのです。そのようなことも励みになって、4年前からスタートした『ほぼ日手帳』英語版の販売に力を入れはじめました」
まだ海外市場で「飛ぶように」売れているわけではありません。しかし「海外市場に出たいけどなかなか決断ができなくて……」と愚痴る経営者が多いなかで、『ほぼ日手帳』の海外進出ロジックは明快です。
一人ひとりのファンがその土地でエコシステムを作っていってくれれば良いのです。その国の言葉でその国の感覚で『ほぼ日手帳』を評価する人たちがだんだんと増え、その人たちがある程度の量の流通を担いはじめた時、はじめてそこで、次のステップのビジネスの仕掛けを話し合っていくという考え方です。何もない時に「独占輸入会社を現地の商工会議所にある企業リストから探そう」という発想をとらないのです。最初にファンありきです。
国境の利用
「国境については、どちらかというとポジティブなイメージです。国ごとに社会、法体系、文化が異なることを、豊かで面白いと受け止めています。ほぼ日刊イトイ新聞も、ほぼ日手帳も、日本の市場の文脈のなかで個性を磨いてきたと思っています。ほぼ日手帳の英語版、Hobonichi Planner に関しては、スタイリストのソニア・パークさんと、彼女のブランドArts & Science とのコラボレーションを通して実現しました。ソニアさんは、韓国生まれ、ハワイ育ちで、東京に20歳ごろにきてからずっと東京で仕事をされています。東京の素敵なモノを世界に紹介することを大事にしておられ、ほぼ日手帳もソニアさんの視点で、日本以外の広い市場に受け入れられるよう、アレンジしていただきました。商品の通訳をしていただいたような感じです」
容易ではないですが、やはり文化の差はどこでもありますから、この文化差を知っている「通訳者」を通じて広めていくことが大事だというわけです。ほぼ日のケースではソニア・パーク氏のような方が各地を繋いでいくことで「次が見える」はずです。現在、『ほぼ日手帳』のフェイスブックページは日本語と英語の併記になっています。
後日、本誌にて、安西洋之氏と糸井重里氏の対談記事を配信いたします!
モバイルクルーズ株式会社代表取締役。上智大学文学部仏文科卒業後、いすゞ自動車入社。欧州自動車メーカーへのエンジンなどのOEM供給ビジネスを担当後、独立。1990年よりミラノと東京を拠点としたビジネスプランナーとして欧州とアジアの企業間提携の提案、商品企画や販売戦略等に多数参画している。国際交渉のシナリオ立案とデザイン企画を得意としている。また、海外市場攻略に役立つ異文化理解アプローチ「ローカリゼーションマップ」を考案し、執筆、講演、ワークショップ等の活動を行っている。
『世界の伸びている中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』安西洋之著
(1,706円,クロスメディア・パブリッシング)
米国、イタリア、ドイツ、フランス、英国、日本の元気な中小・ベンチャー企業に聞きました。「成熟市場で勝ち残り稼ぐ知恵とは?」国や文化の違いは障害ではなく商売のヒント! 日本企業のムダな敗北感は無用!?本書は、中小・ベンチャー企業の経営、マーケティング、海外事業展開を担当する方にとって必須の情報を盛り込んでいます。
