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老いても「不屈の光」を放つ孫正義の父親 福岡でのホークス対ファイターズ戦は、私が足を運んだ最初で唯一の野球の試合だった。その夜のハイライトは、オーナーズスイートに現れたサプライズゲスト──孫の父親だった。 「孫シニア」は、孫以上にヨーダに似ていた。もし杖を持っていたら、そこに顎を載せていたのではないだろうか。ヘミングウェイの『老人と海』のサンチャゴのように、彼のすべては老いていたが、目だけは別だった。黒く、キラキラとして、不屈の光が宿っていた。 80歳になる父、三憲への孫のお辞儀は通常の作法より深く、長く、その目は謙虚に床に向けられていた。クレイジーなビジョンの話はおしまい。彼は父親からためになる話を聞いてはどうかと私たちを促した。 満員の観客およそ4万人がグラウンドで死闘を繰り広げる剣闘士たちを見守るなか、私たちは孫老人が語る別の種類の闘いに陶然と聞き入っていた。生き生きとしたその目がく
ソ連はその成立から日本を「東方の敵」とみなし、第二次世界大戦期には活発な対日情報工作を展開していた。日本国内のみならず、朝鮮半島や中国でも暗躍したソ連の諜報員は、細菌兵器の研究などをしていた通称「731部隊(関東軍防疫給水部)」の存在など、重要な機密情報をつかんでいく。 ソ連・ロシアの安全保障、インテリジェンスを専門とする気鋭の研究者・河西陽平の新著『日ソ中立条約 スターリンのインテリジェンス』(角川新書)から、日ソ関係を大きく揺るがしたソ連の高度な諜報活動の一部を抜粋でお届けする。 関東軍防疫部の存在は早くにキャッチされていた かつて、モスクワに駐在していた笠原幸雄陸軍武官が、東京の参謀本部に宛てた長文電報のなかで「赤軍が化学兵器の増強に力を入れており、日本軍の化学兵器の増強が最も切迫した課題である」と記していたことは前に述べた。 また、この電報がソ連側によって傍受、解読され、化学兵器の
「心身の健康には友達が不可欠」と言われて久しいが、一人が好きという自分の性質を曲げてまで、無理に友達を作る必要はない。それでも、この社会に生きるうえで、どうしても社交しなければならない場面は出てくる。 そんなとき、どうやって切り抜ければよいのか。自称「人間嫌い」の英国紳士の筆者が、煩わしい冠婚葬祭から自分の死に方まで、場面ごとの対処法を伝えている。もっとも、いちばん学ぶべきは、綺麗事を一蹴し、痛烈な皮肉を生み出す彼のニヒリズム的視点かもしれないが──。 存在すること、それは「空間の無駄遣い」 自分の専門分野の講座を開けば、YouTubeで簡単に稼げるらしい。私の専門は、「友達がいないこと」だ。そして私は、この人間嫌いの性質を、多くの著名な偉人たちと共有している。 アイザック・ニュートン、チャールズ・ダーウィン、エミリー・ディキンソン、そしてハワード・ヒューズ。彼らはみな、社交というくだらな
ただものではないオーラ 初めて彼を見たのは、ニケシュの結婚式だった。 2014年7月4日の週末、会場は古代ローマの植民都市であったプーリア州に建つ要塞風リゾートホテル、ボルゴイグナシア。真珠のように白く風化した石壁、鐘楼のあるチャペル、そして中央広場。そのすべてが見事に組み合わさり、いかにも地中海のボルゴ(小さな村)らしい雰囲気を醸し出していた。 一風変わったアラビア風のアーチはどこか場違いで、まるで建築士がブーツの形のイタリア半島とムーア風建築のアンダルシアを混同したかのようだった。とはいえ、全体としては心地よく、異国情緒漂う高級感があり、隣接する海辺の本格的ゴルフコースが贅沢なリゾート体験をさらに完璧なものにしていた。 そしてその魅力にさらに花を添えたのは、ニケシュの友人である俳優のアシュトン・カッチャーと妻のミラ・クニスだった。アシュトン自身、スポティファイやAirbnb、ウーバーへ
「自宅にサウナ」は、まだまだ一般的とは言えないものの、以前よりはずいぶん身近になった。だが、富裕層の視線は次のステータスシンボルに注がれている。どんどん暑くなる夏に逃げ込める、自宅内「冬のワンダーランド」だ。 その日、米テキサス州フリスコの体感温度は37度を超えていた。燃え盛る太陽の下でアスファルトが溶け出すなか、ケイトリン・シェブラーは、おしゃれな食肉冷凍庫のような部屋でくつろいでいた。ローブに身を包み、片手にミモザを持ちながら、彼女は静かに降り注ぐ雪の下、ベンチに座って日記をつけていた。 「吹雪ではなく、心地よい雪です」。高級スパの共同経営者であるシェブラーは、特注したスノールームの中から電話インタビューに応じ、そう語った。 富裕層が手に入れられるようになった「ありえないほど奇抜な贅沢品」のリストに、「スノールーム」を加えよう。気候変動が四季に大混乱をもたらすなか、財力のある人々は自ら
米国の法学者ジョン・O・マクギニスは、不平等の元凶ともとらえられがちな億万長者たちを擁護する。彼曰く、ビリオネアは他の知的エリートよりも多様な思想を持ち、権力分立の一本の柱になりうるのだという。 ドナルド・トランプ、イーロン・マスク、ピーター・ティール……こうした億万長者たちは、批判にさらされがちだ。「民主主義の敵」だと決めつけられることも珍しくない。トマ・ピケティやガブリエル・ズックマンといった経済学者からも狙い撃ちにされている。 そんななか、米国のある知識人が古典的リベラリズムの立場からビリオネア擁護論を掲げている。米イリノイ州にあるノースウェスタン大学の法学者ジョン・O・マクギニスだ。 2026年2月に刊行された著書『なぜ民主主義には富裕層が必要なのか』(未邦訳)では、民主主義が健全に機能するには、富裕層という階級が必要なのだと論じられている。同書はすでに「フィナンシャル・タイムズ」
FIFAワールドカップ北中米大会の決勝トーナメントで、米大統領まで介入した末に、米国代表のストライカーの出場停止処分が解除されるという前代未聞の事件が起こり、世界が騒然としている。一方でこの事件は、サッカー界内部の覇権争いをさらに煽る契機ともなっているようだ。英紙「ガーディアン」の国際スポーツビジネス特派員が、きな臭い「サッカー戦争」の戦況を伝える。 今回のW杯で、ドナルド・トランプ以上にその不在が際立っている世界的な大物がいるとすれば、それは欧州サッカー連盟(UEFA)会長のアレクサンダー・チェフェリンだろう。しかし、両者はこれまでの沈黙を破り、一気に激しい動きに出たのである。 国際サッカー連盟(FIFA)は、7月6日の米国対ベルギーによるラウンド16を前に、米国代表のストライカーであるフォラリン・バログンに対する出場停止処分を解除した。 これに対し、UEFAが非難声明を発表し、この決定
「AIっぽい」と批判されていた作品が、英連邦で最も権威ある文学賞のひとつである、英連邦短編小説賞を受賞した。 受賞したのは、トリニダード・トバゴ出身の作家ジャミール・ナジール(62)だ。2026年5月に彼の作品『The Serpent in the Grove』(未邦訳)の地域部門受賞が発表されると、X上などで「AI使用の明白な特徴がある」との指摘が相次いだ。AI検出ツール「パングラム」では「100%AI生成と判定された」との報告も拡散された。 この騒動を受け、文芸誌「グランタ」は、長年続けてきた受賞作を掲載する提携を取りやめる事態にまで発展した。 問題視されたのは、AIが生成した文章に特徴的とされる「xではなくy(not x, but y)」という構文の多さや、3つの要素を並べるリズム、さらには「彼女はベンチさえ男に変えてしまうような歩き方をしていた」といった、比喩に富んだ独特の文章表現
10年前に離婚したとき、シバハシ・サトコは息子を父親に会わせたくなかった。だがいま、彼女の心境は大きく変わっている。その変化は、日本社会全体の変化と重なる。 G7で唯一、離婚後の共同親権を認めてこなかった日本で、2026年4月、約80年ぶりに大きく改正された民法が施行された。「離婚すれば親子の縁も切れる」のが当たり前だったこの国で、何が起きているのか。英誌「エコノミスト」が報じる──。 「ひどい母親」は自分だった シバハシ・サトコが10年前に夫と離婚したとき、彼女は当時10歳だった息子を父親に会わせたくないと思っていた。離婚劇は醜いものだったし、再会など考えるだけで身がすくんだ。だがその後、彼女は別の離婚経験のある母親と出会う。その女性の子供は父親との面会を許されず、みじめな様子だった。 「なんてひどい母親だろうと思いました。でも、自分も同じだと気づいたのです」 彼女は弊誌の取材に対して、
英紙「フィナンシャル・タイムズ」の記者が昼食を共にしながらインタビューする人気連載に、中国共産党から大きな脅威と見なされている反体制活動家の李穎(リー・イン)が登場。場所は東京・六本木のマクドナルド。政府の検閲をすり抜けて中国の現実と日常をSNSで発信する活動について、そして中国共産党を「破壊するのではなく変革したい」と考える理由について語った。 中国はリアルを見せない「インフルエンサー」 銀行員や弁護士など、さまざまなオフィスワーカーが、金曜日の昼どきの混雑を避けようとマクドナルド六本木ヒルズ店に続々と入ってくる。東京の都心にあるガラス張りの大きな店内のテーブルは、瞬く間に埋まっていく。私はノートと筆箱と「フィナンシャル・タイムズ」紙を使って、柱の陰の席を確保していた。 黒い服を着て、入り口のそばに並ぶセルフレジの前に立っているのは、一部から「中国政府に対して最も強い反発の声をあげる一人
第一子に比べて、なぜ下の子は生涯収入や学歴で不利になるのか。長年の謎に新たな答えが出た。年上の兄姉が知らずに持ち帰る病原体が、きょうだい格差の半分以上を生み出しているという。 なぜ長子が有利なのか 弟や妹には、人生において明らかなアドバンテージがある。 彼らが生まれたとき、親は第一子の誕生時よりも一般的に経済的なゆとりがあり、子育ての経験も豊富だ。また、上のきょうだいはロールモデルやメンター、そして良きライバルにもなり得る。 実際、トップアスリートには弟や妹のほうが圧倒的に多い。 「第一子ではない子供のほうが優秀に育つ理由はたくさんあります」と語るのは、ユタ州のブリガムヤング大学の経済学教授ジョー・プライスだ。彼自身の第二子である息子も、チェスで兄と長年競い合った結果、州で2位になったという。 だがデータが示しているのは、人生においては「長子として生まれること」のほうがはるかに有利だという
「知性が豊富にあるとき、意志には価値がある」 かつて、「AIが人間の仕事を奪う」と声高に叫ばれていた。しかしいま、実際にはこれとは真逆の事態が起こっている。 米テクノロジー企業「アクティブトラック」が、AIを導入した376の企業と1万人の従業員のデジタル活動を調査したところ、AI導入以前と比べて、メールや業務管理など、あらゆる面で仕事の強度が増していたのだ。AIを使うことで、これまで外部に委託していたタスクまで自ら手軽にこなせるようになった結果、各従業員が抱える仕事量が膨れ上がってしまった。 同時にこの調査は、従業員が「邪魔されずに集中して仕事ができる時間」が、AI導入後に9%減少したことも明らかにしている。これまで以上の過酷なマルチタスクに追われることで脳が疲弊し、結果として思考を放棄して受動的にAIに依存してしまう──そんな悪循環が生まれつつある。 AIが急速に普及してからというもの、
燃え尽き症候群に陥っていた元活動家の女性は、毎日同じ木の下に座り続けるなかで、あることに気がついた。自然は私たちに必要なものを知っていて、いつでもそれを差し出す準備ができている──ただ、それを受け取るためには、静かに耳を傾ける必要があるのだと。 どうしても惹かれた「一本の木」 2022年、私は英国・ブリストル近郊のクリーブドンに引っ越した。アパートの裏手にあるオークの木を目にした瞬間から、私はその根元に座るようになった。 どこか遠くの美しい秘境にあるわけではない。芝生に囲まれた、街なかのありふれた丘の上だ。それでも、斜面にぽつんと佇むその木に、私はどうしても心を惹かれた。 この頃、私は完全に燃え尽きていた。10年間、プラスチック汚染に立ち向かう非営利団体を率い、政府を動かしてプラスチック製のカトラリーや発泡スチロール製のテイクアウト容器を禁止させ、スーパーの店頭からプラスチック製綿棒をなく
皇族数の確保をめぐり、2026年6月10日に取りまとめられた「立法府の総意」には、「旧宮家の男系男子を養子として皇室に迎える」とする案が盛り込まれている。しかし、それが皇室を存続させるための根本的な解決策になるのか? 米「ニューヨーク・タイムズ」紙が報じた。 長きにわたり天皇の男系男子による継承を維持してきた日本の皇室が、皇族不足に直面している。そこで現在、国は減少する皇族数を回復させる案を進めている。それは、新たに男性を皇族に迎えるということだ。 皇位継承危機を回避したい日本の国会は、2026年6月、多数の遠縁の男系男子を皇室が養子に迎えることを可能にする案を前進させた。これにより、日本は将来の天皇候補の選択肢を増やすことができ、世界最古の君主制の存続を確実にする可能性がある。 この計画は、一部の日本の政府高官、評論家、そして活動家たちの怒りを買っている。彼らは、より簡単な解決策があると
優柔不断をこじらせている左派 フランスは、これからの1年で国の針路を決める大事な政治の選択をすることになる。 いま勢いに乗っているのは、右派のなかでもナショナリズムを掲げる勢力だ。財界との結びつきをますます強め、移民や外国人の問題を槍玉に挙げながら政権の奪取を狙っている。 この勢力が切り札として用意しているのは、移民規制強化の是非を問う国民投票を実施して、「国民の判断を仰ぐ」という構想だ。これに対し、左派は、歯切れが悪く、優柔不断をこじらせ、内部分裂し、口ごもるばかりだ。 いま左派がしなければならないのは、立ち位置を明確にし、勢力を結集できるようにすることだ。 そのためには、ビリオネア(資産10億ユーロ以上の資産家)やセンチミリオネア(資産1億ユーロ以上の資産家)への課税を強化する「国民連帯税」導入の是非を問う国民投票を提言すべきだ。
“英国のウォーレン・バフェット”と評されることもある、投資家のクリス・ホーンは、史上最も利益を生み出すヘッジファンドをどのような思想と手法で築き上げたのか。ホーン本人に英高級紙「フィナンシャル・タイムズ」が取材し、その知られざる素顔に迫る。 4月のある晴れた午後のロンドンで、クリス・ホーンは神がかっている。 英国で最も成功しているこのヘッジファンドマネジャーは、オフィスの窓から差し込む光を浴びながら、鋭い眼差しを向け、ヒンドゥー教の神秘主義者の言葉を引用する。 「神とは、天空にいる白髭を生やした男ではありません。目を閉じれば、暗闇で神を知れる。神とは意識なのです」 大方のヘッジファンドマネジャーは、魂の営みよりも俗世の事柄を優先するものだ。だが、大方のヘッジファンドマネジャーはホーンのようではない。 59歳のホーンは、米国の伝説的な投資家であるウォーレン・バフェットの英国版とでもいえる存在
日本では近年、東京レインボープライドのようなLGBTQ関連のイベントや、ガザ情勢をめぐるデモ、ジェンダー平等を訴える運動が見られるようになった。しかし、その規模は欧米に比べれば小さく、社会を二分するような激しい文化戦争には発展していない。 その傾向は大学でも同様で、米国のように「Woke(ウォーク)」をめぐる対立が大きな争点になることはまれだ。 なぜ日本の若者は「ウォーク化」しないのか。 そう問いかける記事を、上智大学の言語教育研究センターで講師を務めるフィリップ・パトリックが、英国の保守系雑誌「スペクテーター」に寄稿している。 パトリックは、そのことを実感した出来事として、自身が担当するクラスでのエピソードを紹介する。教材として、米国の社会心理学者ジョナサン・ハイトのインタビューを扱った際、「Woke」という言葉が登場したが、学生のほとんどがその意味を知らなかったという。
強さを左右する「4大要素」 ワールドカップは1930年以来、23回開催され、80ヵ国以上が参加してきた。だがこれまでに優勝したのはわずか8ヵ国にすぎない。なぜごく一部の国が突出して強いのだろうか? この問いに対し、英誌「エコノミスト」が「イロレーティング」を使って各国の実力を分析している。これはチェスから生まれた分析手法で、対戦した相手の強さを考慮に入れながらチームの実力を相対的に評価するものだ。 分析の結果、チームの強さを左右する主な要因が4つ浮かび上がってきた。富、人口、身長、地理だ。
「バイブスの男」が背負った使命 ワールドカップ開催国の米国は、グループDを首位で通過した。パラグアイを4-1、オーストラリアを2-0で退け、すでに突破を決めたあとのトルコ戦こそ2-3で落としたものの、危なげなく決勝トーナメントに駒を進めている。 次戦は日本時間7月2日、1回戦でボスニア・ヘルツェゴビナと対戦する。その米国代表を率いるのが、元アルゼンチン代表のマウリシオ・ポチェッティーノだ。 2024年9月、米サッカー連盟は破格の人選に踏み切った。イングランドのトッテナム・ホットスパーをチャンピオンズ・リーグ決勝に導き、フランスのパリ・サンジェルマンでは国内リーグ制覇を果たしたポチェッティーノを、代表の新監督に据えたのだ。年俸600万ドル(約9億7000万円)は、米サッカー連盟史上最高となる契約額だという。 米スポーツメディア「CBSスポーツ」によれば、ポチェッティーノは就任会見で、「正しい
いまからおよそ600年前の室町時代、日本の芸能史、ひいては世界の演劇史に消えない足跡を残した天才たちがいた。観阿弥(かんあみ)、そしてその息子である世阿弥(ぜあみ)である。 彼らが大成させた「能」(当時は猿楽と呼ばれた)は、現代では格式高い伝統芸能として知られている。しかし黎明期において、それはアバンギャルドで生命力に満ちた「最先端のポップカルチャー」だった。 この中世の熱狂を、圧倒的なビジュアルと演出、そして瑞々しい感性で描き出した漫画が、三原和人の『ワールド イズ ダンシング』だ。同作のアニメ版が、2026年7月から放送を開始する。 なぜいま、世阿弥なのか。なぜ私たちは600年前のダンスに心を揺さぶられるのか。作品の誕生秘話から、能という芸能の特異な魅力、そして作家としての根底にある哲学までを、三原にじっくりと語ってもらった。 苦し紛れの「世阿弥」との出会い 現代の読者を中世へ引き込む
※本記事は重永瞬『新しい日本地理』より抜粋・編集したものです。 「西」の影響力はどこまでか 方言や食文化の境界線が示しているのは、どちらかと言えば伝統的な地域区分である。では、現代の経済・社会において東と西の区分はどのように現れるのだろうか。地域の結びつきを示す一つの例として、人口移動を見てみよう。 5年ごとに行われている国勢調査では、現住地とあわせて5年前の居住地が集計されている。人口統計でよく用いられる5歳ごとの年齢階級で見た場合、居住地移動が最も多いのは、20〜24歳の若者である。この年代では、主に就職によって多くの人が引っ越しをする。しかし、その場合も帰省の都合などを考えて実家から近い場所が選ばれることが多い。 20代前半に絞って、この5年間で「東」に引っ越した人が多いのか、「西」に引っ越した人が多いのかを市町村ごとに示すと、次のようになる(図1-9)。 この地図では、20〜24歳
AIによる失業リスクで注目されるテック業界。だが経済学者が真に懸念するのは、雇用規模が桁違いに大きい「バックオフィス」の労働者だ。中産階級の雇用を支えてきた事務職やカスタマーサービスであり、女性が圧倒的多数を占めている。 かつての脱工業化は男性を直撃したが AIが労働市場に激変をもたらすとしたら、最も脆弱な立場に置かれるのはどの職種なのだろうか? 誰もが思い浮かべる答えであり、ここ数ヵ月間のAIによる失業をめぐる議論を支配してきたのは、「最もリスクが高いのはプログラマーやソフトウェアエンジニアをはじめとするテック業界の従業員だ」という見方だ。 彼らは、メタをはじめシリコンバレーの企業による大規模な人員削減の矢面に立たされてきた。AIシステムが真っ先に習得したのは、まさに彼らのスキルである。 だが現在、多くの経済学者がより懸念しているのは、テック関係者とは異なるホワイトカラーの集団である。そ
睡眠の「時間確保」より「質」の向上へ 日本人の睡眠時間は世界の主要国のなかで最も短い。その深刻さから、睡眠不足に悩む国民がより早く眠りにつき、より長く眠れるようサポートする市場が活況を呈している。 経済協力開発機構(OECD)のデータによると、日本人の平均睡眠時間は米国人よりも1時間半近く短い。研究者らはこの原因について、長い通勤時間や長時間労働、そして睡眠の重要性を軽視する文化を挙げている。 そんななか、日本の「睡眠ビジネス」はいまや10億ドル(約1600億円)規模の巨大市場へと成長し、たとえ思うような睡眠時間が確保できなくても、せめて睡眠の質を向上させたいと願う人々をターゲットにしている。 ここ日本における最新の「スリープテック(睡眠×技術)」製品は、アイマスクや寝心地のいい枕といった従来のグッズの枠を超えている。スマートベッドやパワーナップ(短時間の効果的な仮眠)に最適な環境を作り出
【今回のお悩み】 「私の親友がいつも問題のある人と付き合います。相談されるのでアドバイスをしますが、結局はアドバイスを聞きもせず、過去の経験から何も学ばない彼女に衝撃を受けています。彼女とどうやって友人関係を続けていけばいいでしょうか」 毎回アドバイスを求めくるので親身になって相談に乗ってあげても、結局その意見は聞き流される。挙げ句の果てには、さらに問題を抱えてまた自分のもとへ相談にやってくる──そんな友達がいたら、うんざりするでしょう。だからといって仲が良い友達であれば、なおさらむげにはできない。そんな困った人との付き合い方を、アドラー心理学に詳しい岸見一郎先生に相談してみました。 その友人が誰と付き合うかはその人の課題なので、基本的には何もできることはありません。しかし、その人があなたに相談するのは、本来自分の課題だけれど、自分とあなたとの「共同の課題」にしてほしいと申し出ているのです
強みが発揮できる場所にとどまる ──AIをどう使うと意思決定に役立ちますか。 個人的には、AIを意思決定に使うなら、いちばん効果的だと考えているのは、AIを一種の取締役会みたいにしてしまうことです。これは私が顧客や組織にも勧めているAI利用法です。場合によっては、エージェントを複数作ってもいいかもしれません。私自身のシステムでは、8人の異なる人格で取締役会を構成しています。
カナダの諜報機関からウォール街で一目置かれる意思決定の専門家へ──シェーン・パリッシュは、そんな異色のキャリアを歩んできた。ウォーレン・バフェットの右腕として知られる偉大な投資家チャーリー・マンガーから多くを学んだという。 そのパリッシュに『知の巨人たちの「考え方」を一冊で、一度に、一気に学びきる グレートメンタルモデル』という著書がある。本のテーマとなっているメンタルモデルとは、私たちの思考や世界観や信念を、ほとんど無意識のうちに形作っている頭脳の仕組みのことだ。 その仕組みを学び、活用の仕方を身につければ、問題に直面しても最善の準備をして対処でき、認知の罠にはまるのを回避し、間違った判断の原因となる「考え方の死角」を減らせるという。 生物学、物理学、哲学、心理学、経営学などの学問を縦横無尽に行き来するだけでない。ナシム・ニコラス・タレブ、チャールズ・ダーウィン、アルベルト・アインシュタ
「SNSでいいねが欲しい」「周囲に認められたい」という強い承認欲求は、人が幸福を感じるシステムにおける「バグ」だと、ハーバード・ビジネス・スクールで幸福について教えているアーサー・C・ブルックスは指摘する。他人の品定めに心をすり減らし、自己肯定感を崩壊させないために、いますぐ実践できる「3つの処方せん」とは。 人間には、自分にとって極めて有害なものを欲するという性質がある。たとえば、大量の精製糖は健康を損ない、身体のシステムを不安定にさせる。運動を避ければ身体機能が低下し、精神状態に悪影響を及ぼすこともある。 破滅をもたらすものを求めることは、自然の法則に反しているように思えるかもしれない。しかし、こうした逆効果を生む行動の多くは、進化論の観点から説明できる。 一般的な説によれば、人間はエネルギーを蓄え、身体的な負荷を避けるように本能づけられている。比較的最近まで、多くのカロリーを摂取し、
2025年、「令和の米騒動」に見舞われた日本列島。その様子を間近に見ていた仏紙「ル・モンド」の記者が、日本人のアイデンティティとも言える「米」の歴史と重要性をフランスの読者に伝える。 アジア各国の主食、「米」。だが、日本について言えば、それはただの「食糧」ではない。 それは豊穣の象徴であり、共同作業の象徴でもあった。かつての日本の暦は稲作のサイクルに依拠したものであり、米は長らく富を測る尺度でもあった。稲作が何百年もの間、日本文明の礎とみなされていたのは、こうした背景からだ。 その日本で、米が足りずに価格が上昇した。原因は一つではない。農家の高齢化や農村の荒廃、気候変動も関係しているという。また、過剰生産を避けるための減反政策や、米の輸入を厳しく制限してきた農業政策が裏目に出ている側面も否定できない。 1993年には、米国が日本に米市場の開放を迫ったが、そのときは日本の農家や政党、世論が激
生成AIが急速に普及し、SNSを開けば無数の「意見」や「アルゴリズムが最適化した正解」が提示される今、いつでも簡単に答え(らしきもの)を入手できるようになったからこそ、「自分の頭で考える」ということへの渇望が、かつてないほど高まっています。 AIの回答やみんなが言うことを鵜呑みにするのではなく、自分はどう思うか。新刊『自分の頭で考える 世界をもっとおもしろくする方法』は、そうした自分自身の思考を大切にし、日々研ぎ澄ませている30名の視点を収録した一冊です。 本書より、ホラー作家・背筋さんの寄稿を特別公開します。 ※本配信は発売日の2026年7月16日までの期間限定公開です。 この文章に心が動いたという方は、ぜひ書籍をお手元にお迎えいただき、その思考をじっくりと体験していただけますと幸甚です。 生成AIは幽霊の夢を見るか? 三幕構成という言葉がある。映画業界に携わる方々にとっては常識だろう。
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