この本の翻訳の話をいただいた時、最初に「編み物のことは何も知らないんです」と言った覚えがある。「編み物の本ではありますが、どちらかといえば社会史の本なのです」と言われて読んでみたら、自分の人生を変える本になった。 この本は、イタリア出身のエコノミストであるロレッタ・ナポリオーニさんが、長年のパートナーである夫に起因する金銭的な苦境に直面した時に、編み物という手芸に救いを求め、その存在に支えられたことをきっかけに執筆を決めたノンフィクションである。私たちの世界に当たり前に存在する手芸を軸に、歴史的エピソードや人々の言葉を紡ぐことで、編み物が私たちの生きる世界の歴史の形成に影響を及ぼし、どのように利用・活用されたり、矮小化されたりしながら、爪痕を残してきたかを探求しつつ、私たちの暮らす不完全で綻びのある社会を編み直す可能性を提案する。 翻訳の話が最初に立ち上がった時、確かに私はまったく編み物の

