フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
吉田恵美さん(仮名) 62歳
パートタイマー
兵庫県在住
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昨年7月、まだ梅雨明け前なのに、小学校のときの担任だったK先生に暑中見舞いを出しました。その年の初め、先生とそっくりな字のお嬢様から、先生が施設に入り、賀状の返事を書くのは難しい状態であることを伝える寒中見舞いが届いたことが気になっていたからです。
小学校低学年の頃、何をしても時間がかかる一方で、生意気な発言をしていた私は、クラスメイトにとっても担任にとっても、扱いにくい存在だったと思います。当然、小学校での日々は苦痛ばかり。そんな生活を一変させてくれたのがK先生でした。
生徒の良い面を見つけては大いにほめ、規則や約束を守らなかった時には雷が落ちる……そんなメリハリのある指導をされる先生でした。おかげで私も、良いところを認めてほめていただいたり、活躍の場を作っていただいたりしたことが幾度もありました。
なかでも自分が子育てをしていた時期など、よく思い出していたのは、私にハンディキャップを持ったクラスメートをサポートする係になることをすすめてくれたことです。振り返ると、それまでの私は自分のことばかりを考えている、人一倍わがままな子ども。人の力になることで、誰もがひとりで生きているわけではないことを先生が教えてくれたような気がします。
そんな体験をきっかけに、私はさまざまなことへの興味や関心を広げられたのはもちろん、クラスや学校内でリーダーとして活動する機会を得ることができました。さらに、卒業後も続いた年賀状と暑中見舞いのやり取りを通して、私を見守り、励ましてくださったのが先生でした。
もしかしたらもう最後かもしれない。今感謝を伝えておかなければ……。そう思って出した少し早い暑中見舞いに、しばらくしてお嬢様から封書の返事が送られてきました。手に取った瞬間、ああ、間に合わなかった、と直感して、崩れ落ちそうになりました。お手紙には、先生が亡くなったこと、私のことをよくお話になっていらしたこと、私からの最後の暑中見舞いを仏前にお供えいただいていることが綴(つづ)られていました。
先生からよく聞いたのは、「坂道に車」という言葉です。人生は坂道で荷車を引くようなもので、努力し続けないと後退してしまうという意味です。先生は、がんばって坂道で荷車を引いている人を絵に描いて、教室にも貼っていました。
人として生きる道を教えてくださった。そんなK先生に、言葉では伝えきれない感謝の気持ちを、お花に託して贈っていただければと思います。

花束をつくった東さんのコメント
贈り先は、厳しくも優しかった小学校の先生。スーパーパロットという種類の白と緑の花が咲くチューリップを真ん中に、ブルーのワスレナグサやブルースター、星形の花を付けたアルケミラモリス、イエローのセントーレアなど、パステルカラーのお花を使った優しいアレンジメントに仕上げています。
先生に感謝の言葉を伝えたいという願いが叶(かな)わなかったのは本当に残念ですが、つぼみが開くと同時に茎も伸びていくチューリップなどの変化をご家族に見てもらうことで、投稿者さまの思いも天国の先生に届くといいですね。




文:福光恵
写真:椎木俊介
Azuma Makoto Exhibition「X-Ray FLOWERS」
東信さんの個展が京都で開かれます。
2025年3月20日(木)~30日(日)
11:00 – 18:00 (17:30 最終入場)
京都新聞ビル地下1階 入場無料
詳しくはこちら AMKK
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
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