
こんにちは。旅する編集者の藤本智士です。
今回ぼくは福岡県に来ています。福岡といえば魅力的な飲食店がありすぎて、ランチ一つ決めるのも至難の業。しかし今回ばかりは、空港に着くなり「ダイキョーバリュー」というスーパーの本店へ直行しました!


というのも、ここダイキョーバリューは、全国のスーパーやコンビニなどから毎年1万5千件もの応募が集まる「お弁当・お惣菜大賞」で14年連続受賞を重ねるなど、お惣菜の充実度が半端じゃない。

福岡に3店舗、長崎に1店舗と小規模ローカルチェーンにもかかわらず、メディアの注目度も高く、昨年末には、惣菜部長の梶原正子さんに密着したNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』が放送されたほど。

『いつも厨房から家族を思って〜スーパー総菜部長 梶原正子〜』と題された回は2025年12月に放送された
せっかく来たのだからと調子に乗って、あれも食べたいこれも食べたいと物色しているうちに、気づけばカゴの中がパンパン!



このまま際限なくカゴに入れてたら、きっと全部は食べきれない。でも食べたい。いや無理。 胸の内で欲望と理性が取っ組み合うなか、ふと思い出したのは駐車場に掲げられていたこの看板でした。

「環境に優しい小売業をめざします」。そうだそうだ。取材だからといって買い過ぎてフードロス出してる場合じゃない。食べ切れる量にしなきゃと、本当にいま食べたいものだけを厳選し、必死の思いで絞りに絞りました! その結果がこれ。

多い? 多いか。そうか。でもこれでも食べたいものの半分は諦めたんですよ。
ってことで、インタビュー前に取る炭水化物の量じゃないだろ! というご指摘もすべてお腹に詰めこんで、いよいよインタビューを開始。
肝心のインタビューのお相手はこちら、惣菜部長の梶原さん……ではなく……こちら!

看板の前で浮かれたポーズをとっている、この女性。福岡屈指のアートディレクターであり編集者の佐藤瞳。実は、ぼくが福岡に来るたびに一緒に飲んでくれる優しい友人(ただの酒好きかもしれない)でもあるのですが、なんと彼女は、ここダイキョーの社外取締役を務めているとのこと。
※惣菜部長の梶原さんについては、ぜひ『プロフェッショナル』をみてね。

佐藤瞳さん
1991年生まれ、大分県杵築市出身。九州を拠点に編集とデザインを手がけるクリエイティブディレクター。福岡・箱崎商店街で文脈編集室というチームを主宰するほか、ローカルスーパーマーケット「ダイキョー」の社外取締役を務める。
優秀なクリエイターが福岡のローカルチェーンスーパーの社外取締役になるって、いったいどういうこと? 彼女がこれまで手がけてきたデザインや、普段の仕事ぶりを知るぼくとしては、店内はまるでカオスだし、彼女のクリエイティブが店内のすみずみに落とされているとは思えない。

しかしこの押しの強さこそがスーパーマーケットの良さ。「試作中だから食べてみて」と、梶原さんにキンパを渡され、感想を求められる彼女を見ながら、スーパーゆえの混沌とクリエイティブの洗練がどう交われば、こんな幸福な関係が築かれるんだろう、とますますその仕事が気になります。

ということで、そんな彼女へのインタビューから、スーパーマーケットのデザインやクリエイティブについて深堀りしようと思ったのですが、それが思わぬ展開に……。
インタビュー場所へ向かうと、社長が登場!
ちなみに、セッティングしてくれたインタビューの場所は、ダイキョー弥永本店の隣にある「となりば」という地域の方のための「溜まり場」的スペース。

そもそもこういう場所を持つこと自体が、ダイキョーバリューの象徴のような気がしていたのですが、中に入ってみると、佐藤瞳をダイキョーにスカウトした張本人である、紛うことなきダイキョープラザの象徴、社長の杉慎一郎さんがいらしたからびっくり!

杉慎一郎さん
1972年生まれ。株式会社ダイキョープラザ代表取締役社長。昭和41年に「杉商店」を創業し、53年にダイキョープラザを開いた創業者・杉一郎さんの長男。創業以来大切にされている地域福祉への貢献活動など、地域とともにある商いの姿勢をも引き継ぐ
これは話が早いと、急遽社長にインタビューを試みることに。そしてこれがまた、稀に見る金言の連続。スーパーだけに、スーパーためになるインタビュー記事になったと思うので、日頃の感謝を込めて大奉仕セールだい!
社外取締役のスカウトは登山から

藤本 早速なんですが社長、そもそも、どうして瞳を社外取締役に?
杉 いや、面白そうだなって。もちろんセンスがあると思ったのが大前提なんですけどね。すごいなあと。
藤本 何を見て「すごい」と思ったんですか。
杉 もともとダイキョーのクリエイティブを支えてくれる人を求めてたんです。それで偶然、彼女のInstagramを見て。「この人だ」と思って、どうやって口説こうか考えていました。
藤本 インスタからなんですね!
杉 まちおこしで考えるとわかりやすいと思うんですけど、「こういう部分は田舎くさいかもしれないけど、その良さもあるよね」っていう微妙なニュアンスをわかってくれる人って、なかなか出会うのが難しいじゃないですか。
藤本 わかります! ダイキョーさんってまさにそこが重要ですよね。単純に洗練させたいわけじゃない。
杉 そうなんです。単なる技術者さんだったら「もう建て替えましょう」となるところを、「この古いのがいいんですよね」って言える人。そういう、もともとある良さを活かしてくれる人を探していたんです。

佐藤 なんだか、恐縮です。
杉 そうやって「この人だ!」と思って声をかけることが、ぼくはこれまで何度かあったんですけど、ほとんど外したことがないんですよ。勝手な思い込みかもしれないですけど(笑)。
藤本 いや、そういう直感って大事です。
杉 そんなとき、彼女がインスタに山登りの写真をアップしたので「今だ!」と思って声をかけました。「この山どこですか?」「どこから登るんですか?」ってDMを送って。
藤本 なんとまわりくどい(笑)。シンプルに山のことを聞くところから。
杉 それで、うちの会長と2人で、その山に行ったんです。まずは登らないと次の会話にならないと思って。
藤本 けなげ!

杉 山を登りながら、ずっと会長に「こういう人がいて、この人と次にこんなことができると思うんです」って語っていました。
藤本 会長へのプレゼンタイムでもあったんだ。
佐藤 そのあと何人かで一緒に山登りましたよね。

杉 そうそう。そこからですね。
藤本 その着実なアプローチが、外堀埋められていく感じですごい。でもちょっと自分だったら怖いかも(笑)。瞳は、そのときどう思ってたの?
佐藤 怖いってことはないんですけど(笑)。当時は、建築設計からグラフィックやイベント企画まで、まちのいろいろなデザインに関わる会社に所属していたので。
杉 いや、きっと怖かったですよね。ただ、彼女が組織の人だとわかっていたら、そもそも声をかけられなかったと思います。インスタが組織の人っぽくなかったんですよ。
藤本 でも実際は会社員だった。
佐藤 はい、当時は社員として働いていました。
杉 てっきりフリーでやってると思って、この人とどう繋がればいいんだろうって考えていたら、組織の人だったんです。なのでまずは、組織としてお取引させてもらうところから始まったんです。でも、そのときの提案がすでに斬新で。
佐藤 ローカルあるあるですけど、当時の会社では「まずはやってみろ」みたいな感じで。正解がわからないながら、自分で探りつつ、これかな、こうかな、みたいなことを、九州のいろんな街で試させてもらっていました。今の編集的な仕事や、人との関わり方の基本を教えてくれたと思っていて、すごく感謝しているんですけど、9年間ほど所属していたので……。
藤本 ちょっと違うところに身を置きたいと思ってたのかな。
佐藤 そうなんです。私もいよいよ会社をやめることを決めて、一年後にはフリーになることを伝えたら「何かしら席を用意するから来てもらえないですか」って言っていただいて。
藤本 蓋を開けたら社外取締役だった。
佐藤 そうです。それで「え、なんで?」って思いつつ、光栄なので頑張ります、みたいな感じで。ありがたかったです。
「のぼりを作った」より「人を連れてきた」を評価する

杉 ぼくたちのような小規模なスーパーはお金がないので、個人なら払えても、組織になると払えない額になってしまうんです。それに組織になると、よくもわるくも、彼女の能力じゃなくて、組織の能力で対応いただくことになるじゃないですか。ぼくはそこをあまり信用していないんです。
藤本 あくまでも個人の能力というか個性というか、そこを見るんですね。
杉 うちの会社は、当人が本当にやりたいことを、どう出せるかを考えてます。もちろん自由ではないんです。ルールはある。でも、向いている方向さえ同じなら、うちは思う存分に出せる環境だと思うんです。たとえば、売り場にカレーがあったでしょう。
藤本 スパイサーひろみさんのカレーですね。めちゃくちゃ美味しかったです。

杉 彼女はうちのスタッフなんですが、好きな食材を自分で買って、好きなように調理してカレーを出してもらっているんです。彼女が作るのは、もはや飲食店のカレーですよね。ああいうのは、その人に与えられた能力だと思うんです。
藤本 たしかに。個々のキャラクターが生きているからこその、あの惣菜売り場なんですね。
杉 もし彼女をただ惣菜担当の一人として雇っていたら、彼女は唐揚げを揚げているかもしれないし、煮物を作っているかもしれない。そしたら、彼女が本当にやりたいこと、固有の能力みたいなものが、誰の目にも止まらずに、一生そのままの可能性すらある。
藤本 つまり、社長の中で見えていた佐藤瞳の才能、与えられたセンスみたいなものを、「うちなら活かせる」っていう直感があったんですね。
杉 今は2年目なので、出せていないところもまだまだあると思います。でも、出したるぞ、と本人が思えば、さらに4倍、5倍と変化していくと思います。

藤本 少し立ち入ったことを聞きますけど、瞳はどういう雇用形態になってるんですか。
杉 ベースがあって、そこにプラス出来高ですね。
藤本 その出来高のところって、どういう部分なんですか? かわいい看板を作ったとか、のぼりを立てたとか?
杉 正直、のぼりを立てたとかデザインをしたとかは、そんなに大きく評価しません。それは、センスは別として、やろうと思えば他の人でもできるし、それを彼女に頼もうとは思ってないからです。
藤本 そうなんですか!? じゃあどういう部分に。
杉 たとえば去年の7月に、人気のパスタ屋さんがうちの隣に移転してくれたんですけど、彼女のご縁だったんです。そういうのはちゃんとプラスする。呼ぶとか、声をかけるということは、誰でもできないしとても大きなことなので。

2025年7月に福岡市東区箱崎からダイキョーの敷地に移転した大人気のイタリアン「杢moku」
藤本 え?! そこ、評価してくれるんですか? すごい。
佐藤 ほんとうに。ありがたいです。
藤本 それこそ、よくある評価の軸って、「のぼりができた」「デザインをした」っていう、わかりやすい成果物に対するものになるじゃないですか。けど人を寄せるご縁って、めちゃくちゃ大きいのに、定量的な価値として測ってもらえないから評価されづらい。
杉 効率や数字の物差しだけで測ったら、うちにとって佐藤さんの価値はほんとゼロかもしれない。ごめんなさいね(笑)。
つまり、この事象がスーパーの売り上げを上げるという直接的な効果は測れないじゃないですか。それこそ「このデザインで売上が5倍になった」なんて究極よくわからない。なのに多くのスーパーは、それを定量化しようとして、大事なものが見えなくなってるんじゃないかなって。
藤本 いやちょっと油断してたら、すごい話になってきました。まったくそのとおりだと思います。

杉 「これ何? お金、生まないじゃん」と言われることにも、価値があるんです。ただそうやって、何かあたらしい動きに対して許可したのはぼくだけど、一方でその価値がわからないのもぼくなんです。でも、彼女にはその価値が見えているんだろうなと思うから、そのチカラを「出して」と言う。
藤本 ぼくいま、とんでもない話を聞いてるなと思うんですけど、社長のすごいところって、まさに「わからないこと」をわかっていることですよね。
杉 ああ、無知の知みたいな。
藤本 まさに。わからない人は、わからないことに気づかないから、自分を正しいとしてしまって、その拠り所となる定量価値を求めてしまう。そんななかで「わからないけど、こっちが大事だと思うから信じてみる」っていうディレクションができるリーダーって、本当にすごいと思います。
杉 そんな褒められると、すぐ調子に乗りますよ(笑)。
自由はこわい。だから「泣いて戻れる場所」を作る

藤本 社長にアプローチしてもらった2年前は、まだ前の組織にいたってことだよね。
佐藤 そうですね。「佐藤さんはフリーになったらいいのに」ってよく言われてました。
杉 いま思えば失礼ですよね(笑)。半分は冗談ですけど、その力は十分あると思っていたし、のびのびしたほうがいいなと。
でも、のびのび、つまり、自由って、怖いんですよ。「どうしたらいいですか?」「じゃあ、こうして」っていう関係は簡単なんです。だけど「好きにして」と言われたら、そこに責任が生まれる。「社長がそうしろと言った」とは言えなくなる。その緊張感が、この店のいたるところに充満しているんです。
藤本 そこだなあ。まさに。

杉 自分の責任で、自分が作りたいから作る。だから「美味しくない」と言われたら、すごく傷つく。でも、上に立つ人ほど、それでもやりたいことをやりきるんです。
藤本 なるほど。自由には責任が伴いますもんね。
杉 「もっと自由が欲しい」ってよく言うけど、自由をもらった瞬間に、本当の怖さがわかるじゃないですか。
藤本 とはいえ、ちゃんとハーネスのような安全装置がついてる。そこに安心や保険があるからジャンプできるんですもんね。自由と責任を負えるためのハーネスを社長が作ってらっしゃる。
杉 ぼくが大事にしたいのは、圧倒的なセキュアベース(安全基地)を作ることです。
藤本 安全な場所ですね。

杉 「これやっていいですか」に対しては、効率がいいかどうかより、それが「お客さんにとってどういいのか」という、その人なりの答えがあれば、やっていい。でも8割くらいは失敗するんですよ。やっぱり泣いて戻ってくる。その、泣いて戻ってきていい場所を作らないといけないんです。
藤本 その言葉に泣いちゃいます。
杉 「もっと行ってこい」じゃなくて、泣いて戻ってこられるから、またチャレンジできると思うんです。チャレンジの場所って、言い換えれば甘えられる場所であり、守ってくれている場所でもある。だから、冒険ができるんです。
藤本 失敗したときに「失敗した」って言える空気を作るって、めっちゃ難しいですよね。
杉 難しいですよね。でもやってみないとわからないし、失敗はしますから。
競合店がやったことを真似しようとするのは失敗しにくい。でも、それはしょせん真似事だし、面白いと思っていないものを一生懸命作るようなものです。どうせやるなら、競合店がやれないこと、やらないことをやる。効率は悪いし、材料費も高い。でも、そこにこそ面白さや、お客さんに伝えられることがあるんじゃないかと思うんです。
センスがないから、人を集める。先代から受け継いだもの
藤本 駐車場に「リサイクル運動を推進します」って看板がありますよね。けっこう年季が入っているなと思ったんですけど、お父さんの代に作られたものですか。


こんな別の看板も
杉 ぼくはこれでも、社長になって17年目なんですけど。父は地元のため、地域のためにっていう思いが、すごく強い人でした。センスもある人でしたけど、佐藤さんが持っているようなセンスとはまた別なんですよ。
父は、たとえば「米とあん おこめのおめかし」みたいなお菓子を作るとか、かき氷屋をやるなんて言ったら、絶対に反対しただろうなと思って(笑)。でも、ぼくは自分たちのところにしかないお土産を出したいっていう思いがあったんです。


おはぎに特製クリームを挟んだ、ダイキョーオリジナルのスイーツ「はぎトッツォ」。2021年にダイキョーの惣菜コーナーで販売開始し、大ヒット。常設店「米とあん おこめのおめかし」もオープンした
藤本 いまや「おこめのおめかし」の“はぎトッツオ”は大人気商品ですもんね。
杉 ありがたいことに。でも、ぼく自身にはセンスがないし、物を作れるわけでもない。だから、とにかく人集めなんです。ぼくと同じような人ばかりだったら、会社は大変なことになる。だから、数字に厳しい人とか、自分にないものを持っている人を、いっぱい集めています。
藤本 自分にないものを持つ人をちゃんと集められるって、すごいことだと思います。
杉 投げたボールを取ってくれるかどうかはわからないですけどね。佐藤さんにもいくつも投げますけど、これは取る、これは取らない、でいいと思ってるんです。
「絶対これをしろ」って言っていたら、やっぱり佐藤さんの良さは出ない。ぼくは投げまくる人で、それを拾ってくれる人を、どうサポートするか。みんながいいって言うものは大手もやる。みんながいいって言わないものは、誰かが応援するしかないですよね。
分業をやめる。人口が減る時代の「逆行」する商売

藤本 社長のお話は、スーパーマーケットというリソースがあるからこそ、できることですね。
杉 そうです。ダイキョーの利益をどう出すかは、誰よりも考えます。3キロ圏内にスーパーが40店舗、ドラッグストアを合わせると60店舗あるなかで、うちが一番小さいんです。4店舗しかないのに450人抱えていて、これはある意味で異常な数です。普通のスーパーは、少ない人数で工場を回している。
「4店舗で450人、どうやって生きていくの?」っていうのを「いや、こうしたら生きていけますよ」ってやるのは、中小企業のひとつの希望の星になれるんじゃないかと思っていて。
藤本 成長し続けないなら、あとは衰退しかない、みたいな世の中の風潮ですもんね。
杉 そうなんです。たしかに難しいけど、楽しいというか。人生の3分の1の時間が職場なので、そこが面白くないのは、辛いですよね。
そういうぼくの考え方を、うちの専務に移したのが2019年なんです。それまでは、ぼく自身がスーパーの中で異端児的なことをやろうとしていた。
藤本 託す人がいらっしゃるんですね。
杉 そうなんです。スーパーの業界って、1980年ごろから2000年ごろまで、人口とともにずっと右肩上がりだったんです。ぐーっと上がり続けるときの商売の癖が、いわば分業型のアウトソーシング。でも人口減が顕著になったいま、それが難しくなってくる。ということは、ある意味で人口が増える前の状況に逆行させないといけない。
藤本 前向きに、ポジティブに後退させていくというか。

杉 そうです。たとえば、鮭弁当を作るとき。鮮魚売り場で鮭を切っているけど、塩干の鮭は別で仕入れている。惣菜の鮭弁当はまた別で仕入れている。と、仕入れが3つに分かれていてややこしい。それは「そういうもんだ」と言われていたのを、「うちで切った鮭をそのまま弁当にも使おうよ」って仕組みを組み直していったんです。
藤本 わかりやすい。そもそも「そういうもんだ」という慣習自体が、伝統というよりは、割と近年そうなっただけですもんね。
杉 そうなんです。でもそうなると、「じゃあぼくたち鮮魚部門の売り上げは?」と言われるんですけど、「いや、売り上げで評価しないから」って話します。
藤本 すごい。
杉 それを理解してもらうのがなかなか大変で。でもそういったことを最初に理解して、実行してくれたのが専務なんです。やり方も性格もぼくとは違うけど、同じ山に登ろうとしてくれた。
藤本 すごい。最強だ。
杉 あと、常務も2人いて、彼らの能力もぼくにはない。ぼくは、みんなの能力がフルに出るようにしたい人で、自分の能力以上のものを自分が出そうとは考えてないんです。「わからないから手伝ってください」という立ち位置。
「もっと命令してくださいよ」って思われることもあるけど、考えを出せたら出すけど、出せないから君たちがいるんじゃん、って。そうじゃないと、能力が出ないというか。
『プラダを着た悪魔』のリーダー像と、妥協しない愛

藤本 リーダーって面白いですよね。ぼく、ちょうど昨日『プラダを着た悪魔2』を観てきたばかりで。前作はもう20年前なんです。
当時の上司像って、会社に帰ってきたらアシスタントにカバンをボーンと投げる横暴さがかっこいい姿として描かれていて。いわゆる“昭和感”というか。それが20年経って、社会が変わるなかで、そういう人にはもう誰もついてこなくなるよねということが、エンタメとしてあからさまに2では描かれていて。1の頃にはあり得なかった描かれ方をしている。
杉 わかります。昔だったら「給料払ってるんだからやってよ」っていう立場だったと思うんですけど、いまは「ぼくに行きたいところがあるので、お金を出すから手伝ってください」っていう時代ですもんね。
藤本 だからもう、杉社長は『プラダを着た悪魔3』くらいかもしれない(笑)。
杉 社長って偉くないんですよ。仮面をつけて生きてるようなもので。ペルソナですね。会社がなくなったら、ぼくはただのおじさんですから。ただ、行きたい方向への思いに関しては、誰よりも強いんだと思います。だから、そこが弱いことに対しては憤りを感じることもある。「いいよ」と言いながら、心の中では「それは弱いんじゃないかな」って。
藤本 経営者の苦悩ですね。

杉 たとえば肉まんを作るのも、「これぐらいでいいんじゃない」っていうのが、すごく嫌なんです。それをやったら、ぼくらの存在意義がないじゃないですか。一生懸命やって、その人の口に合わなかったというのは全然許すんです。パクチーが好きな人も嫌いな人もいる。でも、妥協は違いますよね。
藤本 そもそも自分が納得していないのに進めるのは、よくないですよね。
杉 「惣菜が高いね」と言われても何とも思わないんです。でも、「安くできた」ことを良しとするのは違う。
もちろん安くてもいいんですよ、チープじゃなければ。ここだけは嫌なんだっていうところが、みんなに伝わってほしい。それがなくなったら、うちのスーパーの意味がないじゃんって。皆さんの口に合うかは置いといて、妥協するかしないかは、こっちの問題なので。
藤本 瞳がここにやってきた意味がよくわかってきました。
杉 とはいえぼくらも、ものすごく手探りなんですよ。まだ途中だし。言葉にするのが、とにかく難しいんですよね。テレビに出たりすると、大手のスーパーさんから、見学にたくさん来られたりするんです。でも、何がいいかわからないまま帰っていかれるんです。
藤本 同業なだけに「こうやってるはず」っていう思い込みがあって、裏側の違いに気づかないのかもしれないですね。
杉 でも「これいいね」って言われると、逆に困るんです。真似されるってことだから。他の店がやりたがらない、やれない、よくわからないからいいんです。そこを、いかにやっていくか。それをもっとやっていきたいですね。
おわりに

インタビューを終えて、ぼくの中にずっと残っているのは、「わからないことを、わからないまま大事にできる」という社長の在り方でした。
世の中は何でも定量化して数値で測ろうとする。売上がいくら上がったか、何人来たか、効率はどうか。もちろん、それも大事です。でも、そうやって数字で測れるものばかりを追いかけているうちに、いちばん大事なものが、こぼれ落ちていく。
佐藤瞳という友人の才能を、ぼくはよく知っているつもりでした。でも、その才能を「デザインができる人」ではなく「人を連れてこられる人」として見抜き、定量化できない価値にちゃんと役割と居場所を用意した杉社長は、ちょっと想像外の素晴らしさでした。

わからないからこそ、OKを出して任せる。失敗したら、泣いて戻ってこられる場所を作る。ダイキョープラザという場所の安心感が、スタッフを超えてまちの人たちに伝わっているのだろうと思います。あの心地よさの正体は、混沌と洗練の間にこそ宿っているに違いないなと思いました。
社長自身が「わからない」と言うものをほかの人が真似できるわけがない。なんだかわからないけど、価値があると思えるもの。そこにこそデザインや編集といったクリエイティブのチカラが注がれるべきなのだと強く思える。最高な取材になりました。
そして最後に、大切な友人の佐藤瞳へ。瞳のインタビューのはずが社長のインタビューになってごめんね。でも、わかってる。あの場に社長を仕込んだのが瞳自身であることを。さんきゅ。

写真:松本大聖
編集:友光だんご
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この記事を書いたライター
有限会社りす代表。1974年生まれ。兵庫県在住。編集者。雑誌『Re:S』、フリーマガジン『のんびり』編集長を経て、WEBマガジン『なんも大学』でようやくネットメディア編集長デビュー。けどネットリテラシーなさすぎて、新人の顔でジモコロ潜入中。











































