中国で爆当たりの「宿題解説アプリ」、世界の投資家がカネを注ぎ込む「ヤバい破壊力」

中国で「宿題アプリ」と呼ばれるAI(人工知能)を使った教育サービスが急拡大している。宿題などの設問をスマホで撮影すると、たちどころに解答や解説が得られ、場合によっては動画などでより詳しい解説を受けられるというものだが、単に宿題をラクするためのアプリとは考えない方がよい。

各社の時価総額はすでに巨額となっており、その資金力を生かして、世の中に存在するあらゆる設問をデータベース化している。現時点ではあくまで初等中等向けの教育サービスだが、この手法は学術論文などにも応用できる可能性があり、圧倒的な「知」の体系を作り上げる可能性も出てきている。

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教育の概念をひっくり返す

宿題アプリとして中国国内でもっとも使われているのが「作業幇」である。頻繁にアプリを利用するアクティブユーザー数は1億7000万人を突破しているが、中国における5~14歳の人口は約1億7000万人しかいない。このアプリは高校生も対象範囲に入っているが、主な利用者は小中学生と考えられるので、ほとんどの子どもがこのアプリを使っていると推測される。

作業幇の最大の特徴は、設問をスマホで撮影すると自動的に内容を解析し、類似の問題をデータベースから探し出し、解答と解説を送ってくれることである。このサービスは無料で利用できるが、有料サービスで講師を呼び出して指導してもらうこともできる。講師は利用者が付けたレビューや動画などで選別できるシステムとなっており、優秀な講師陣が揃っているという。

アプリという形になっているが、予備校や学習塾が提供していた各種機能やサービスが、より高度にIT化したものと考えればよいだろう。

学校のテストや入試で出される設問というのは、指導要領など公的な基準に沿ったものなので、一定の法則性が存在する。予備校にはカリスマ講師と呼ばれる人がいるが、こうした指導のプロは、設問と解答のパターンを徹底的に分析しており、どのパターンの設問が多いのか、どのように説明すれば生徒が理解しやすいのかといった点において卓越したノウハウを持つ。

受験勉強の経験がある人ならよく分かると思うが、予備校の有名講師らが書いた、いわゆる定番の参考書は非常に完成度が高く、圧倒的に勉強の効率を高めることができる。

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しかしながら、この宿題アプリは、単に予備校の機能を置き換えたものにとどまらず、想像を超える潜在力を持っている。場合によっては教育という概念そのものをひっくり返す可能性すらあると筆者は考えている。

宿題アプリとリアルな予備校の最大の違いは、講師の頭の中にとどまっていたノウハウがAIという形で完全に汎用化・電子化されたことである。同社が蓄積した設問はすでに3億件に達しており、1億7000万人もの利用者が毎日、分からない問題を送ってくるので、児童生徒がどの部分で躓いているのかといった情報が次々と蓄積されていく。利用者ごとの履歴を解析すれば、個別の進捗度や理解度もたちどころに把握できるはずだ。

世界の著名投資家がこぞって投資

それだけではない。AIを駆使したより高度な分析ができれば、アプリと児童生徒のやり取りを通じて、その児童生徒の潜在的な学習能力も測定できる可能性が見えてくる。場合によっては、単にパターンの暗記で点数を取っている児童生徒なのか、いわゆる「地頭が良い」児童生徒なのかも分かってしまうかもしれない。

ここまでくると、子どもの学習能力を丸裸にしてしまう可能性があり、ちょっと恐ろしくなってくる。このアプリを小中学生のほぼ全員が利用しているという状況では、文部科学省(中国では教育部)など教育を担当する政府組織の立場も危うい。

これはハイテクに熱心な中国の話だが、日本も決して無関係ではない。学校の勉強方法は文化圏で大きな違いがあるが、日本や中国、韓国など漢字文化圏に属する国の勉強方法は極めてよく似ている(基本的に暗記・詰め込み型)。欧米であっても数学や理科など自然科学の分野については、ほぼ共通と考えてよいだろう。

もし、中国の宿題アプリ大手が本格的に日本語対応を進める決断をすれば、あっという間に日本でも同様のサービスが展開できるはずだ。圧倒的な物量と高度なAI技術で勝負されてしまっては、日本の教育産業などひとたまりもないかもしれない。

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このように宿題アプリには極めて大きな潜在力があるため、中国の巨大IT企業や世界各国の投資家がこぞって巨額資金を投じる状況となっている。先ほど紹介した作業幇を運営する「小船出海教育科技」は、中国の検索エンジン大手「百度(バイドゥ)」からスピンアウトした企業であり、アリババグループやソフトバンクグループ、世界的なベンチャーキャピタルファンドであるセコイア・キャピタルなど著名投資家が株主として名を連ねている。

作業幇のライバルとなっているアプリは「猿補導」だが、このアプリを運営する「北京猿力教育科技」は、オンライン授業などにも力を入れており、今のところ教育関係の成長企業では最大手である。北京猿力教育科技には、同じく中国のネット大手で、対話アプリ「微信(ウィーチャット)」などを提供する騰訊控股(テンセント)が出資した。

知の体系が根本的に変わる?

宿題アプリを始めとしたネット教育サービスの普及は、教育行政や教育産業に地殻変動をもたらす可能性がある。作業幇の利用者は各地域に広く分布しており、中国内陸部の所得の低いエリアもカバーしている。今の時代は、どんなにも貧しい国や地域でもスマホは保有しているので、本人がその気になれば、どこにいても基礎教育を受けることができる。教育の機会均等とは一体何なのか、再考を迫られるかもしれない。

学校が果たす役割についても議論の対象となるだろう。学校は児童生徒に勉強を教える場でもあったが、同時に、児童生徒の学習状況など、関連情報を収集する場所でもあった。児童生徒の様子は学校を通じてしか分からないので、教育行政における学校の発言力は極めて大きかったといってよいだろう。

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ところがこうしたアプリがほぼすべての児童生徒の学習状況を網羅する状況になると、学校が持つ機能や価値がゼロベースで問い直されてしまう。単なる詰め込み型の勉強を教える場としては機能しなくなる可能性が高い。

ここから先は少し話が飛躍するが、こうした教育AIのターゲットはおそらく初等中等教育だけではないだろう。各社が持つAIの精度が上がれば、この機能はやがて大学など高等教育にも拡大され、最終的にはアカデミズムの分野にも進出していく可能性がある。

高度なAIが、世の中に存在する学術論文をすべて読み込み、知の体系を再構築してしまう可能性は否定できない。世界中の「知」を収集するという試みはすでにグーグルが行っているが、グーグルが進めてきた知の体系化と、教育AIの知の体系化は方向性が異なる。

グーグルの検索アルゴリズムは、あくまでマスの利用者がどの情報を参照しているのかというリンクの集合体であり、知の体系というよりは、参照の体系化であった。このため大衆が望む情報ばかりが検索上位にランキングされてしまい、ネットは部分的にはただの衆愚空間となっている面もある。

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だが、教育AIが査読を経た論文や、一定の評価を得ているメディアに掲載された記事のみを選択し、そこで得られた知見を元に、検索エンジンのアルゴリズムを修正したらどうなるだろうか。短期的にはレベルの低い情報が排除され、ネットの使い勝手は一気に向上するかもしれないが、逆に言えば、いよいよ人間の「知」というものがAIに左右され始めることを意味している。しかもこうした分野における中国企業の存在感は極めて大きい。宿題アプリが持つパワーは計り知れないと考えた方がよいだろう。

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