王者・日テレに暗雲
2018年が間もなく終わる。民放が鎬を削る年間視聴率争いも決着する。
2017年までの4年間、年間視聴率争いで勝利を収めてきたのは日本テレビだ。特に優劣が問われる「全日帯」(午前6時~深夜0時)、「ゴールデン帯」(午後7時~同10時)、「プライム帯」(午後7時~同11時)の3部門すべてでトップを獲得し、いわゆる「年間視聴率3冠王」を達成し続けてきた。
同じく2017年までの4年間にわたって年間視聴率2位だったのはテレビ朝日。つまり、近年の民放界は「日テレVSテレ朝」のトップ争いが続いている。この構図は、さほど視聴率争いに興味がない人でもご存じなのではないか。
では、2018年の勝敗はというと……やはり日テレが勝利を収めそうだ。ただし、2017年までとの際立った違いは、圧勝とは言えず、接戦だったということだ。このままでは、2019年の勝利はおぼつかないだろう。
事実、2018年10月の月間視聴率争いにおいては、全日帯のトップをテレ朝に明け渡してしまった。それまでは月間視聴率争いで、58カ月連続で3冠王だったのだが、ついに途切れてしまったのだ。それにとどまらず、翌11月12日~18日の週間視聴率争いは、3冠ともテレ朝に奪われている。このまま手を拱いていては、年間視聴率トップの座が危ういのは自明なのである。
日テレ失速の理由は、既に複数挙げられている。
「昼の帯番組『ヒルナンデス!』が失速している」
「お家芸で視聴率の稼ぎ頭である夜のバラエティー番組がマンネリ化しつつある」――。
いずれも「正解」だろう。半面、どの番組も対処療法で窮地を脱することができるように映る。日テレはワイドショー・情報番組部門もバラエティー部門もスタッフ、ノウハウが豊富だからだ。
高視聴率を得てきたバラエティー番組「世界の果てまでイッテQ!」が、やらせを指弾されている問題があったが、これも乗り越えるだろう。日テレでは2012年にも「芸能★BANG+」という情報バラエティー番組の過剰演出が猛批判を浴びたが、すぐさま打ち切り、問題を収束させた。
ほかにもトラブルと化した番組は、惜しむことなく打ち切ったり、軌道修正したりして、火消しに成功してきた。日テレのバラエティー部門は、トラブル番組の処理術にも長けている。
むしろ深刻なのは連続ドラマ部門の不振に違いない。まるで出口のないトンネルに迷い込んでしまったようだ。
いったいなぜ…?
テレ朝の場合、プライム帯で現在放送中の「リーガルV」「相棒season17」「科捜研の女」はいずれも好調。それぞれ12月10日現在の平均視聴率は15.4%、同じく15.4%、12.2%。現在の視聴率事情を鑑みると、堂々の成績である(文中の視聴率はいずれもビデオリサーチ調べの関東地区の数値に基づく)。
一方、日テレもプライム帯で3作の連ドラを放送しているのだが(「今日から俺は!!」はプライム帯の日曜午後10時半からプライム帯外の同11時25分まで)、いずれの平均視聴率も合格水準とされる10%台に満たない。「獣になれない私たち」は8.7%、「ドロ刑-警視庁捜査三課-」も8.7%、「今日から俺は!!」は9.6%にとどまっている。
これはなにも現在に限った話ではない。日テレは2018年のプライム帯の連ドラにおいて、1作品たりとも平均視聴率10%を達成できていないのである。だから、「深刻」と言うほかないのだ。
2018年1月期(1月~3月)の水曜午後10時台に放送された「anone」に至っては、平均視聴率6.1%に終わった。内容の良し悪しは別とし、視聴率的には大失敗と言わざるを得ない。
ドラマも映画も演劇も制作において大切な順に「1に脚本、2に役者、演出は3番目」とよく言われるが、「anone」の脚本は当代屈指の実力者に違いない坂元裕二氏(51)が書いた。主演は人気の広瀬すず(20)。演技力についても主演映画「ちはやふる」(2016年)などで各演技賞を得ており、若手とはいえ、未熟とは言えないだろう。
となると、3番目の「演出を含めた制作側」に問題があるように思えてならない。脚本家に適切にリードできるかどうかも含めてである。
「anone」以降、どの作品も平均視聴率が10%に届かないのだから、やはり制作陣に問題があると思われても仕方がない。前述したワイドショー・情報部門、バラエティー部門と違い、制作体制が整っていないのではないか。
連続ドラマ部門において、安定した視聴率を得ているテレ朝と、不振が続く日テレの違いは何か? それを考えていくと、2005年の「火曜サスペンス劇場(火サス)」の打ち切りに行き着く。日テレにとって、結果的に大きな痛手となったに違いない。
1981年にスタートした「火サス」は大人向けの作品を1話完結で流す2時間ドラマだった。安定した視聴率を記録し、質についても評判高かった。演出陣として、中島貞夫氏や村川透氏、中村幻児氏、森崎東氏ら映画界の名匠まで参加していたのだから、当然のことだろう。
実際にドラマをつくっていた制作会社も巨匠・故進藤兼人らが興した近代映画協会や東映、松竹京都映画、大映テレビ、テレパックなどで、充実していた。
ところが現在、列記した制作会社はいずれも日テレのドラマに関わっていない。「火サス」の打ち切りにより、日テレは俳優や脚本家、ドラマ制作会社などとのパイプを細くしてしまったように映る。特に、大人向けのドラマをつくるための外部協力者が縁遠くなってしまった。「火サス」終了以降、日テレと付き合いがなくなった俳優、制作会社は数え切れないという。
近年、日テレではまったく見ない「相棒」の水谷豊(66)も、「火サス」があったころには「浅見光彦ミステリーシリーズ」や「地方記者・立花陽介シリーズ」などに登場していたのである。日テレが「相棒」のような連ドラをつくれる可能性も十分あったのだ。
では、なぜ「火サス」が打ち切られたのかというと、視聴率が漸減したこともあったが、当時の日テレ関係者が口を揃えたのは「制作費が高い」「視聴者層の年齢が高い」ということだった。スポンサーは視聴者層が若いほうが喜ぶ。それは購買意欲が高いからである。若者が見る番組があると、局側はCM枠を高値で売りやすくなる。
逆に、年配層は財布の紐をなかなか緩めないので、スポンサーにはあまり歓迎されない。民放がF1層(20歳から34歳までの女性)、M1層(同じく男性)の視聴者獲得に躍起になるのは、このためである。
一方、1977年に90分枠で始まり、のちに2時間化されたテレ朝の「土曜ワイド劇場」も2017年3月に終了した。だが、テレ朝と日テレの方針は違った。俳優、制作会社とのパイプ維持も理由に、テレ朝は翌4月から日曜の午前帯に「日曜ワイド」という2時間ドラマ枠を設けたのだ。
それも2018年3月で終わったが、代わりに翌4月からは同じ日曜の午後9時台に「日曜プライム」という2時間枠をつくり、現在も放送中だ。ここではバラエティーや映画を流すこともあるものの、2時間ドラマも用意している。テレ朝は2時間ドラマを捨てていないのである。無論、視聴率的なプラス面も考えてのことだろうが、俳優や制作会社とのパイプも考慮しているに違いない。
日テレの誤算
テレ朝が大人向けの連ドラづくりに強い理由は2時間ドラマがあるからだけではない。「相棒season17」と「科捜研の女」は東映との共同制作であり、権利も権限もテレ朝と東映で分け合っている。「リーガルV」はテレ朝の単独制作の形だが、制作協力している老舗の制作会社「ザ・ワークス」のスタッフ3人にプロデューサーを任せている。
この作品のエグゼクティブプロデューサーとプロデューサーは計6人なので、半分がザ・ワークスのスタッフということに。権限を大きく委譲しているのだ。
一方の日テレはというと、まるで対照的で、ドラマのみならず全番組の制作を単独でしている。著作権もすべて持つ。つまり、全権利を日テレが持っているのだ。「火サス」を含め、2000年代までの番組の制作や権利は制作会社と権利を分け合っていたが、ネット配信時代の到来を睨み、自社が番組の二次利用を自由に扱えるようにするため、制作・著作を自社にしたのである。
これにより、制作会社にとっては、日テレは旨味の乏しい会社になってしまった。特に二次利用料の大きいドラマ部門がそうだ。日テレのドラマにおいて制作会社がはたす役割は、制作協力のみ。制作会社とのパイプが細くなったように映るのは、2時間ドラマが消えたことだけが理由ではない。
また、「土曜ワイド」からは2000年、「相棒」が生まれた。ほかにも、現在はシリーズ化されている「警視庁・捜査一課長」などの連ドラが誕生した。テレ朝にとって2時間ドラマ枠は優良連ドラをつくる場にもなっていた。現在の「日曜プライム」は「遺留捜査スペシャル」など過去の連ドラの特別編を放送し、俳優と制作会社、そして視聴者を繋ぎ止める役割をはたしている。
戦略ミス…?
一方の日テレは、自分たちの戦略を疑ったことなどなかっただろう。年配層ばかりが見る「火サス」は要らない、ネット配信時代になりつつあるのだから著作権はすべて自社が持つべきだ……。こうした考え方は、ビジネス的には理にかなっていたように見える。だが、日テレが読み違えたであろう部分もある。見てもらいたい若者たちのテレビ離れだ。
日テレが現在、「ドロ刑-警視庁捜査三課-」を放送中の土曜午後10時台、「今日から俺は!!」の日曜午後10時30分からの1時間枠は、アイドルを出演陣に起用したり、漫画を原作とする作品が目立ったりするなど、明らかに若者をコアのターゲットにしている。「獣になれない私たち」の水曜10時台も若い女性を意識した作品が多い。
だが、多くの若者はそもそもテレビそのものにソッポを向いてしまったのである。
総務省が2018年7月、情報通信政策研究所の調査結果として発表した「平成29年(2017年) 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、テレビを平日にリアルタイム(生)で見ている時間は、全体だと平均で159.4分。2時間半以上である。60代だと252.9分、50代は202分、40代も全体平均値に近い150.3分見ている。ところが、20代は91.8分、10代に至っては73.3分しか見ていない。
2013年の調査では10代が102.9分、20代が121.2分だったのだから、若者のテレビ離れは急ピッチで進んでおり、しかも決定的と言わざるを得ない。「火サス」が打ち切られた2005年とは、テレビを取り巻く環境が激変してしまったのだ。
たとえ直接的な利益が薄かろうが、2時間ドラマと大人向けの連ドラを重んじ、そのノウハウを引き継いできたテレ朝が視聴率争いにおいて優位に立ちつつあるのは必然のことだろう。
「火サス」を捨ててから13年。日テレがドラマのターゲットを大人にシフトした時、一度縁のなくなった俳優や制作会社を呼び戻すのは簡単ではないだろう。著作権の問題もある。局内に大人向けドラマをつくるノウハウが残されているのかどうかも疑問だ。
日テレは、大人の視聴者に惜しまれつつ打ち切られた「火サス」に復讐されているのかもしれない。
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