衆議院選挙への立候補も取り沙汰されている小池百合子・東京都知事に対し、「国政と都政は矛盾する」「都政を捨てるのか」といった批判的意見が寄せられている。だが、本当にそうだろうか。
首都圏の人口の動きを丁寧に見ていくと、東京と地方、都政と国政の問題は、切り離さずに考える必要があることがわかってくる。最新作『23区大逆転』(NHK出版新書)を発表した、東京23区研究所所長の池田利道氏が、東京をめぐる「誤解」の本質を分析する。
「東京一極集中」「東京ひとり勝ち」と聞くと、私たちはつい感情的になりがちだ。
実際のところ、未来の日本のあり方として、一極集中と分散調和のどっちを選ぶかと問われれば、筆者は迷うことなく後者に軍配を上げる。ただ、多くの人が「とにもかくにも東京一極集中は良くない」と、最初から決めつけてしまっていることには、違和感を感じる。
固定観念をいったん捨てて、目の前の事実をしっかり見つめ直すことで、問題の本質が見えてくる。そして、そのとき初めて、新たな世界の扉を開くことができる。
東京への人口集中は、勢いが弱まっている
千代田・中央・港の都心3区で働く人のうち、45%が埼玉、千葉、神奈川の近郊3県に住んでいる。かくいう筆者も、船橋から渋谷に通う「千葉都民」だ。「東京一極集中」と言う場合の「東京」とは、1都3県(以下、「東京圏」)を指すと考えるのが、素直な理解だろう。
「平成27年国勢調査」における東京圏の人口増加率(5年前との比較、以下同)は1.4%。年間にならすと平均0.3%ほどしか増えていないので、「微増」という表現が実態に近い。ちなみに、同時期の沖縄県の人口増加率は2.9%。東京圏の人口増は、沖縄の半分にも満たない。
とはいえ、1都3県以外の地方では同時期、人口が1.6%減っており、東京圏との格差が存在することは事実である。
ただし、ここで誤解してはならないのは、こうした東京圏への人口集中は、いまに始まった話ではないということだ。
東京圏の人口増加率は、前回の東京オリンピック開催直後の1965年に17.6%(地方圏は2.3%)、バブル真っ盛りだった1990年に5.0%(地方圏は1.1%)だった。この数字を見ると、当時は確かに「一極集中」と呼ぶにふさわしい実態があったと言える。大正から昭和初期にかけても、東京圏の人口増加率は地方圏を大きく上回っていた。
少子高齢化が進み、長期不況のなかで仕事を求める人が地方を出て、近ごろはすっかり東京のひとり勝ちだ、というありがちな文脈で現状を語るのはまったく間違っている。むしろ、東京圏に人口集中する時代が長いこと続いたが、その勢いは近年弱まっていると考えるべきなのである。
人口集中は「東京」ではなく「23区」
東京圏への人口集中は、近年、勢いが落ちただけでなく、その中身が変わってきた。
東京圏のコアとも言える23区の人口は、1965年をピークに減少へと向かい、それから30年間にわたって減り続けた。いわゆる「ドーナツ化現象」の結果である。それが再び増加に転じるのは、1990年代後半のこと。2005年以降は、東京圏全体の人口増加率をも上回るようになる。
東京23区に限ると、過去5年間(2010〜15年)の人口増加率は3.7%で、15年間(2000~15年)に広げると14.0%にもなる。23区以外の東京圏(東京都多摩地域と埼玉、千葉、神奈川各県)の同15年間の人口増加率は6.2%、1都3県以外の地方圏は-2.7%なので、23区の人口増加の突出ぶりがわかる。
そう、「東京一極集中」はいまや「23区一極集中」へと姿を変えたのである。
では、そうした東京23区への人口集中を担っているのは、どんな人たちなのだろうか。
【図表1】は、2010~15年の5年間に23区に転入してきた人の数から、23区外に転出した人の数を差し引いた「転入超過数」を年齢別に記したものだ。
増えているのは、10代後半から20代というごく一部の年齢層に限られていることがひと目でわかる。しかも、転入超過が増えるのは18歳以降で、15~17歳は転出入がほぼ均衡している。また、30代~40代前半と10代未満の子ども、つまり子どものいる家族世帯は転出の方が多い。
データをより詳しく見ると、大きく転入超過となっているのは、年齢にかかわらず「未婚者」なのである。核家族が88,000人の転出超過であるのに対し、ひとり暮らしは134,000人の転入超過となっている。
これらの数字を解釈すると、進学・就職・転職などを機に23区に集まってきた若者たちは、結婚して子どもが生まれると23区外に引っ越していき、ひとり暮らしの未婚者が23区にたまり続ける、という現状がはっきりと見えてくる。東京都の出生率が低い(2016年の特殊出生率は全国最下位)理由は、23区に未婚者が多いからにほかならない。
なお、【図表1】を見ると、高齢者も転出超過となっている。これは、高齢になると、(同居するかどうかは別として)子どもが住む郊外のまちへと引っ越していくためである。
23区周辺での人口「キャッチボール」
国も自治体も、そしてメディアも、「一極集中」という言葉から、他地域からの人口増加を連想しがちだ。しかし、「結果」としての増加だけでなく、その結果を生み出す、転入と転出が織りなす人口移動の「構造」まで見ないと、実態は見えてこない。
【図表2】に見るように、23区への転入者総数に占める、地方からの転入者の割合は4分の1ほどに過ぎない。
一方、23区内の他区からの移動と、23区外の東京圏(東京都多摩地域と埼玉、千葉、神奈川各県)からの転入を合わせた数は、転入者総数の3分の2を占める。なお、23区外の東京圏からの転入は、その大部分が、東京に通勤可能な近郊エリアからである。
転出者数も同様で、23区内の他区への移動と、23区外の東京圏への転出を合わせると、7割を超える。要するに、一極集中といわれる現在の23区の人口増は、23区とそれを取り巻くきわめて限られたエリアにおける、人口の「キャッチボール」の結果に過ぎないのだ。
東京と地方の抱える問題の本質は同じ
「東京一極集中」=「東京ひとり勝ち」と短絡することの誤りをご理解いただけただろうか。
実態を見誤ってしまう最大の理由は、東京と地方を相対する存在としてとらえるからだ。私たちの生活実感に照らしたとき、東京と地方はひとつながりの存在と言えないだろうか。
全国知事会は、大学が過度に集中しているから東京一極集中が起こるとして、東京での大学の定員増を抑制すべきと主張し、政府もその意向に沿う考えだという。同じ政策は高度経済成長期にも行われ、のちに見直された経緯がある。見直しを迫られた最大の理由は、実際に大学に通い、大学のそばで生活する学生の視点に立っていなかったからだ。
人口減少に対応するため、地方は大学の誘致に積極的だ。しかし、たとえ誘致に成功して学生が増えたとしても、彼ら彼女らが卒業後までその地方に定着するとは限らない。未婚者がたまり続け、結婚して子どもができたとたんに出ていってしまう東京23区と、問題の本質は変わらない。東京と地方のいずれも、ファミリー層を定住させ、出生率を高め、税収を増やすことには成功していないのである。
ただ、東京23区は近年、それぞれの地域特性を前面に打ち出した取り組みによって、ファミリー層の定着に成果を上げ始めている。端的な例を挙げると、全国の出生率が1.26(2005年)から1.45(2015年)へと0.19ポイント上昇した同じ期間に、港区の出生率は0.79から1.44へと0.65ポイントも上昇している。少子化の一途をたどっていた中野区でも、近年一転して子どもの数が増え始めている。
背景にあるのは、まちの個性、まちのDNAを最大限に尊重しつつ、課題に対応していこうとする柔軟な姿勢にある。30年間に渡って人口が減り続け、地方に先駆けて人口減に向き合ってきた東京23区のしたたかな戦略を、ここに見ることができる。
近著『23区大逆転』に、「時代の動きを先取りする『東京のいま』は『地方の未来』であり、『地方のいま』はやがて人口減少を余儀なくされる『東京の未来』だ」と書いた。時間や規模の差はあれ、同じ問題を抱える東京(あるいは大都市)と地方が、都市経営のノウハウを大胆に交流すべき時代が始まっている。
小池都知事は「希望の党」の設立会見で「日本をリセットする」と宣言したが、筆者は、リセットすべき分野とすべきではない分野を明確化することこそが、未来のカギを握ると考えている。変化は連続の中で生じるのであり、連続を無視した変化は決して定着しない。来るべき総選挙では、こうした生活の機微に光をあてる政治の実現に期待したい。